西村音響店

ヤマハKX-W600の修理◆ヘッドが逆を向いて右軸が回る危険なデッキ

ヤマハKX-W600の修理◆ヘッドが逆を向いて右軸が回る危険なデッキ

皆さん、こんにちは。西村音響店でございます。

過去に行った「デッキがヘッドが汚れたまま再生するとどうなる?」の実験で使用したデッキに、異常が発生しました。左のAデッキを汚れたまま再生して、音がどうなるかを調べる実験です。その終了後。

 

クリーニングをしていると、オモテ面の再生モードにしているのにも関わらず、なぜかヘッドが180度回転する状態に。

実はこの状態、非常に危険です。早急に直さなくてはなりません。

 

 

テープで綱引きする危険な状態

表面を再生する場合、ヘッドは回転せず上昇し、右側のピンチローラーがキャプスタンに密着します。

 

しかし、現在のKX-W600は…

ヘッドは反対を向き、左側のピンチローラーとキャプスタンが密着しています。おまけに、右側の巻取り軸が回転するという、わけの分からない状態です。

この状態でテープを再生しようとすると、回らないどころか危険です。

 

いまテープに何が起こっているのか。

左側のピンチローラーは左へ向かって、右側の巻取り軸は右に向かって、互いにテープを引っ張りあっています。するとどうなってしまうか。テープが伸びます

 

では、なぜこのような症状が発生したのか。原因を探ってみることにしましょう。

どこだと思いますか?

 

ヒントは、再生ヘッドをどうやって回転させているかです。

 

 

正解はここ。

白いレバーの動きに原因があります。すぐ隣には、レバーを引っ張るソレノイドがあります。

結論から申し上げると、レバーの戻りが悪くなって、再生ボタンを押すと必ずヘッドを回転させてしまうことが原因です。

 

正常なBデッキで、レバーの動きを確認してみると以下のようになっています。オモテ面の再生とウラ面の再生で、少し動きが違います。

↓表面を再生するとき↓

↓ウラ面を再生するとき↓

比べてみると、オモテ面再生では、レバーが途中で一瞬戻っています。つまり2回レバーが動くような恰好です。

今回、故障したAデッキは、グリースが固着気味になったせいで動きが悪くなり、常にウラ面再生の動きしか出来なくなってしまったわけです。

つまり、再生ボタンを押すと必ずヘッドが回転してしまいます。

 

ヘッドを回転されるか否かは、レバーの動き方を変えることで制御しています。安価なグレードのカセットデッキによく見られる構造です。

構造が簡単な傾向にある故、壊れにくいという仮説を立てていました。ジャンク品であっても、高確率でそのまま使えてしまうデッキが多いです。しかし、まさかこんな壊れ方をするとは想定外でした。

 

 

原因は固着。選択肢は分解修理のみ。

それでは、修理に取り掛かります。

今回はヘッドを上下させたり回転させたりする部分に原因があるということで、その部分まで分解していきましょう。

とりあえず、メカニズムを降ろさないことには始まりませんから、メカニズムを降ろします。外し方はデッキに向かって手前側に引っ張り出す方法で行います。

 

まず、フロントパネルを外します。ディスプレイと操作ボタンも一緒に外しますので、配線を基板から外す必要があります。

実は最初、フロントパネルを外さなくとも、メカを奥側にスライドさせて外せないか試みました。行ける!と思いきや、基板と干渉してダメでした。

 

メカの後ろ側に接続されている3つのコネクタ、メカを固定しているネジ計6個を外します。

メカを固定しているものを全部外したら、手前側に引っ張るだけです。配線のコネクタがメカ側にある点が非常に嬉しいですね。メンテナンスが楽です。多くの場合は、長い配線で遠くにある大きな基板に接続されています。

 

こちらがKX-W600のメカニズム。

ヘッドを回転させる部分は、メカの後ろ側にあります。したがって、後ろ側から分解していくことにします。


 

メカの後ろ側には、基板が1枚付いていますので外します。ネジではなく、矢印の部分にある金属の突起で留まっているだけです。プライヤーなどで曲げると、外せる状態になります。

もう一つ、巻取り用のモーターの配線も阻んでいるので、はんだを吸い取って外します。

するとこのように、基板を外すことができます。

 

次はキャプスタンモーターの取り外しです。モーター単体ではなく、ブロックごと外します。

3つのネジと、ヘッドの配線コネクタ(♀)を外します。

すると基板と同じように、上へ避けることができます。キャプスタンが見えてきました。問題の部分はこの下にあります。

 

まだこの状態ではキャプスタンを外せそうにありません。赤白黒のケーブル(リーダーテープ検出センサー)を外しましょう。

これでキャプスタンを外せる状態になりました。
驚いたことに、真鍮製のフライホイールを使っています。ブラスというだけに流石はヤマハですね。

 

キャプスタンを取り外すと、大きな白い歯車が表れます。

今回問題となったのは、ここの白いレバーです。正常であれば、バネの力によって所定の位置に戻るようになっています。

最初にご紹介した、再生時のレバーの動きを思い出してみてください。表面を再生するときは、途中でレバーが一瞬戻る動きをしていました。しかし、グリースが少し硬くなってしまったのか、戻りが悪くなって、その動きが出来なくなってしまったと考えられます。

 

さて、どうやって直すかですが、ひとまず今回はシリコーンスプレーを差しておくことにします。

 

・・・

 

その方法は、はっきり言って面倒臭いです。

 

 

中途半端な分解は逆に不安になる

シリコーンスプレーで済ませるどころか、全部分解してしまいました。

最低限の分解の方が逆に面倒臭いという理由。いわゆる固着が原因の故障は、油分を完全に洗い流さないと完治しないためです。後で動きが悪くなると再び分解しなくてはなりません。

 

部品にパーツクリーナーを吹きかけ、古いグリースを落としていきます。脱脂洗浄の作業です。

 

脱脂洗浄が終わったら新しいグリースを塗り、元通りに組み立てていきます。

キャプスタンを取り付ける前に、必ずオイルを一滴垂らします。パーツクリーナーによって脱脂されているため、滑りが悪くなっています。音揺れ(ワウフラッター)を低減するためにも必ず行います。

 

ピカピカになって組みあがりました。デッキに搭載しましょう。


 

いよいよ通電。

この瞬間はこれまで100台以上手掛けていても緊張します。

電源スイッチを押した途端に、トランジスタが弾けることを想像すると怖いですね。他にも煙が出たり、表示がおかしくなったりとか。(※全部経験あり)

表示も正常で問題なしです。

オモテ面の再生で動作確認しても、右軸が回り、ヘッドは回転せず上昇します。繰り返し試してもきちんと動作してくれましたので、無事直りました。

最後に、テープスピードや再生レベルなど、諸々の調整を行って完了です。

ここまでの所要時間は4時間弱くらい。KX-W600は部品点数が少ない方になりますので、分解から組立てまで3時間台で済みます。ただダブルデッキなので、両方のデッキを作業する場合は倍の時間がかかりますね。

ダブルデッキの中古価格があまり上がらず、なおかつ整備済みのデッキが少ないのも、このような理由があるかと思います。というより、そもそも人気がありません。

 

 

今回のまとめ

安いグレードの機種は構造上壊れる確率が低く、直さなくても一応は使えると思っていました。しかし、突然に今回の故障が起こったため、少し予想外な展開となりました。

Bデッキの方は2019/10/31時点では異常は発生していません。ただ、今回の事を考えると近いうちにメンテナンスが必要になりそうです。

いくら壊れにくい機種とはいえ、カセットデッキは油断できません。ある日、デッキの動きが悪くなりだしたら、それは故障のサインかもしれません。

 

 

動画バージョン

 

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