西村音響店

カセットデッキのヘッドが汚れたまま再生するとどうなる?【実験】

カセットデッキのヘッドが汚れたまま再生するとどうなる?【実験】

 

みなさん、こんにちは。西村音響店でございます。

 

今回は、カセットデッキで実験をしてみましょう。みなさん、デッキやテープの説明書に、

「汚れてきたらヘッド、キャプスタン、ピンチローラーをクリーニングしてください」

という文、見たことがない方はいますでしょうか?

 

おそらく、全員見たことがあると思います。当然といえば当然で、お話しするまでもないかもしれません。では、もし汚れたまま再生したらどうなると思いますか?

もう推測できてしまうかもしれませんが、今回はそれを確かめるべく、いざ実験です。

 

 

ご覧の皆さんに音を聞いていただくコーナーがあります。ぜひヘッドホン等をご準備ください。

 

真っ茶色に汚れたヘッドで再生してみよう

今回実験に使うのは、こちらのデッキです。

YAMAHA KX-T900 ジャンク品

ヤマハ KX-T900

普通のダブルデッキに見えますが、実はダブルデッキではなくツインデッキと呼ばれるデッキです。2本同時に再生できるという、少し変わったデッキになります。

 

ジャンク品の状態ですので、これは派手に汚れているだろうと期待しつつ、再生ヘッドの状態を見てみましょう。

YAMAHA KX-T900 汚れた再生ヘッド

ヘッドの表面に傷のようなものが見えるでしょうか。これが長年そのままにされた磁性紛の汚れです。キャプスタンもピンチローラーも汚れが付いているのが確認できます。

それでも動作は問題なくできますので、実験にはもってこいです。

 

ここで実験の手順を簡単にご紹介しましょう。

テープはハイポジのTDK CDingⅡ 70分を使います。録音は、できるだけワウ・フラッターの少ないデッキ(今回はTEAC V-8000)で、ドルビーBを掛けて行いました。録音した曲は、音揺れに敏感なピアノソロと、音の輪郭が大事なアコースティックギターの曲です。

このテープを、①クリーニングする前の汚い状態、②クリーニングした後の綺麗な状態、それぞれで再生し、音をパソコンに取り込みます。

取り込んだ音を、皆さんに聞いていただくというのが、今回の実験です。

 


さぁでは、汚れたデッキで再生したらどうなるのか?さっそく再生してみましょう。

最初にピアノソロ、1分以降にギターが入っています。

【KX-T900 クリーニングなし】

36~51秒は試しにドルビーをOFFにしています。OFFにしても、お聞きのようにとりあえず鳴っているだけの状態です。

この音をしっかり覚えておいてください。

 

 

クリーニングテープって効果ある?

さて、ヘッド・キャプスタン・ピンチローラーを綺麗にしたらどう変わるか?を実験したいところですが、その前に。

折角なのでクリーニングテープがどれ程の効果があるかも実験してみましょう。

カセットテープに精通している方であれば手でクリーニングするのが当然かもしれません。僕も同感です。ただこの機会に、効果を改めて確かめておきたいと思います。

 

それではクリーニングテープを掛けます。1往復させた場合と、5往復させた場合で、聞き比べてみましょう。

【KX-T900 クリーニングテープ1往復】

【 〃 クリーニングテープ5往復】

音の変わり具合から、クリーニングテープでどれくらい汚れが落ちているか想像できましたか?

5往復もすれば、音は良くなってきましたが、それでもまだギターの音がぼやけています。ドルビーを掛けているので、高音域が出にくくなると音の違和感が顕著になります。

というわけで、次は手でしっかりクリーニングしてみましょう。

 

 

手で綺麗にクリーニングする

再生ヘッド、キャプスタン、ピンチローラーをしっかり掃除し、ヘッドイレーサーで消磁も行います。

長年掃除されていないデッキは、やはり汚れが落ちにくく、中には落としきれないこともあります。がっちり癒着してしまっている様子です。少し時間はかかりますが、綿棒に汚れが付かなくなるまで根気よく行います。

綿棒もすぐ真っ茶色になります。10本近くは使ったでしょうか。

クリーニングの際に少しコツがあります。このデッキは、テープを入れないと操作ができない仕様になっています。しかしこれでは、キャプスタンが止まったままで掃除がしにくいです。

そこで小技を1つ。イジェクトボタンを押しながら、再生ボタンを押します。すると、ガチャンと音がしてヘッドが上がり、キャプスタンが回りだします。

もし、キャビネット(上蓋)を開けられるようでしたら、棒などを矢印の部分に差し込みます。するとイジェクトボタンを押さなくとも、操作できます。非常にクリーニングが楽です。

 

ご覧のようにきれいな状態になりました。

本来であれば、再生スピードなど諸々の調整を行いたいところですが、今回は実験中ですので調整は省略。ヘッドの状態だけ変えて、他は同じ条件にします。

この状態で聞いてみましょう。差は明らかだと思います。実験するまでもありませんが…

【KX-T900 手動クリーニング後】

 

 

別のデッキで2回目の実験。

もう1台のデッキで実験してみましょう。

YAMAHA KX-W600 ジャンク品

ヤマハ KX-W600

こちらは純粋なダブルデッキです。どちらか1本ずつしか再生できません。

 

このデッキもジャンク品ということもあって、きっとヘッドは派手に汚れていることでしょう。

YAMAHA KX-W600 キャプスタンの汚れがひどい。

ヘッドはKX-T900ほど汚れていませんが、キャプスタンはド派手に汚れています。

 

実験の条件は先ほどと同じです。テープも曲も同じです。まずは汚れたままのデッキで再生してみましょう。

YAMAHA KX-W600 キャプスタンが汚れたまま再生してみる。

【KX-W600 クリーニング無し】

お聞きいただけましたか?この音を覚えておいてくださいね。

それではクリーニングしましょう。まぁこちらも頑固に汚れていること。

 

・・・

 

と、ここで緊急事態発生。

 

なぜか、順方向の再生をしているのにも関わらず、ヘッドが180度回転します。

順方向で再生しているのに、ヘッドが反対向きになってしまう。

ヘッドは反対向きになって、右側の軸が回っていて、左側のピンチローラーがキャプスタンに密着している。これは非常に危険な状態です。テープを思いっきり引っ張ってしまう格好になっています。

さぁ困りました。どうしましょう?

 

 

と言われても、修理することしか選択肢がありません。

ひとまず、順方向の再生が出来るようにしましょう。きっと油切れが原因です。メカニズムの後ろ側にその部分がありますので、分解して開けてみるのですが…

ヘッドの上下作動や回転を行う部分を分解するが、面倒くさい。

 

 

分解が本当に面倒臭い。

ということで、

KX-W600のメカを完全分解した。

全部分解してしまいました。

油切れや固着による故障は、部品を綺麗に洗浄しないと再発する恐れがあるので、全分解(オーバーホール)が確実です。

殆どのデッキで修理するときは全分解を基本としています。ですので、個人的には部分的に分解する方がかえって面倒に感じてしまうのかもしれません。

 

メカニズムが綺麗になって組みあがりました。所要時間は2~3時間くらいです。

このメカニズムは、過去にSONY TC-K500Rで経験済みであったので比較的すんなりと進みました。再生ボタンを押したときの動作音が、「どこかで聞いたことあるな…」と思っていたら構造が同じだったというわけです。

 

それではお待たせしました。メカニズムをデッキに搭載して、いざ再生です。

【KX-W600 修理後】

汚かった時とオーバーホール後、聞き比べてみてください。2回目の実験では、高音域の出方はさほど差はありませんが、音揺れの多さに差がよく出ていると思います。

 

 

今回のまとめ

2回の実験から、ヘッドの汚れは高音域の悪化を、キャプスタンの汚れは音揺れを招くということが分かりました。

しつこいかもしれませんが、ヘッドやキャプスタンが汚れたままテープを再生するのは良くありません。音が悪くなるばかりか、テープに汚れが移ってしまうことも考えられます。

普段から綺麗にされている方にとっては、「汚れたまま再生するなどけしからん。」という感じですが、今回の実験結果で改めてどうなるのかを感じていただけたらと思います。

キャプスタンに茶色い磁性紛が付き出したら、クリーニングが必要なサインです。

『キャプスタン 茶色くなったら 掃除せよ』

 


最後に、今回聞いていただいた音源を、ここにすべて並べてみます。

実験1回目 KX-T900

クリーニングなし

クリーニングテープ1往復

クリーニングテープ5往復

手できれいにクリーニング

 

実験2回目 KX-W600

クリーニングなし

オーバーホール後

 

 

 

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