こんにちは、西村音響店です。
今回は過去に修理を経験したデッキを振り返って、特に難しかったデッキをランキングで紹介します。
カセットデッキは機種によって構造や設計が千差万別です。となれば、修理の難易度も変わってきます。さっと分解できるデッキもあれば、数時間かかってしまうデッキも存在します。
「こりゃ、手強いわ…」
「おぃおぃ、この配線の数はなんだ!?」
正直な気持ちで表すと、厄介なデッキは2年3年経っても何故か心にしっかり焼き付いています。今でも脳裏に鮮明に映ります。
人間の心理に言えることですが、強烈な刺激や体験って、なかなか忘れられないものです。
今回はそんなデッキを紹介してみたいと思います。皆さんも予想しながら、読み進めてみてください。
第5位 AKAI GX-F71
このデッキで最も難しいのは、メカニズムの取り外しです。普通は配線のコネクタを基板から外して、固定しているネジを外して…と進めていけば、難なく可能です。30分もあれば概ね取り外せると思います。
ところが、そう簡単にメカを外させてくれないのがGX-F71。
どういうことか、コネクタ無し。直接はんだ付けです。
黄色で囲った配線を外すのですが、はんだを吸い取る以外に方法がありません。録音ヘッドと再生ヘッドの配線は幸いにもコネクタ接続ですが、それ以外は全部はんだ付け。
コネクタが無い場合、メカニズムを取り付ける時に間違って配線を接続してしまうリスクが出てきます。ですので、1本1本配線に印やラベルを付けておかないと、後で泣きます。
メカニズム自体は、アカイやA&Dの3ヘッドデッキでお馴染みの構造をしているので、分解の難易度は大したほどではありません。
ただ、メカニズムの取り外しの難易度が半端なく高い。
GX-F71は1982年のデッキですが、特に’80年代前半のアカイは本当に手強いです。
第4位 YAMAHA TC-800GL
レトロかつお洒落な1台です。僕は詳しくありませんが、有名なデザイナーが手掛けたデッキで、とても個性的なデザインをしています。
さて、このデッキの難しいところですが、まずメカを外すことができません。’70年代のデッキに多い、ボディシャーシとメカニズムが一体になっている構造です。
となれば部品を1つ1つ外すしていくしかないのですが…
TC-800GLは基板が行く手を阻みます。黄色で囲った基板の下にメカニズムがあるため、まずはこの基板を避けなくてはなりません。
ようやくクリアしても、配線があっちこっちに飛んでいて部品を外すのも一苦労です。上手いこと配線を避けながら知恵の輪の如く、1つ1つ部品を外していきます。
さらに、製造から45年近く経つ機種ということで、電子部品も交換しようとなるとこんな状態になります。もしどこか1本が接触不良になったり断線したりすると、もう分けわかりません。
このデッキを修理したのは、2年半前くらいになるでしょうか。それでも未だに印象に焼き付いているということは、手強いデッキだったことに間違いないです。
第3位 AKAI GX-R88
とにかくメカニズムが滅茶苦茶複雑です。
このデッキをご存知の方はなんとなく想像がつくかもしれませんが、難しい理由はこれです。
3ヘッド + オートリバース + ダイレクトドライブ + クローズドループデュアルキャプスタン
まさに、カセットデッキの究極形です。しかし、その分構造も大変なことになっています。
こちらがGX-R88のメカです。詳しい方なら、アカイのメカだとすっと分かるかもしれませんが、下の画像をクリック(タッチ)してみてください。人によっては頭が痛くなるかもしれません。
台数を熟した僕でも、やっぱり頭が痛くなります。
そして、ヘッド周りのゴチャゴチャした配線と、歯車の多さ。よくもこんなの作ったなぁと思わず笑いが出てしまうほどです。
オーバーホールをしようとすると、この歯車たちを外すことになりますが、組立ての時に噛み合わせを間違えると大変です。ヘッドが上手く回転しなくなったり、再生状態にしてもピンチローラーとキャプスタンが密着しなくなったりと、メカニズムの動作がおかしくなります。
もし組立てた後に気づいたらどうするか?
やり直しという、苦痛の試練が待っています。
構造が簡単ならまだ良いのですが、またあの頭が痛くなるメカを分解するとなると結構つらいです。そんな時は、2週間くらい時間を置いておいてしまって、一旦忘れることが良策だと思います。
さて、GX-R88の難しいポイントは2つあります。
まず1つ目は、磁気ヘッドの配線にフレキシブルケーブルが使われていること。これを切ってしまうと大変です。
分解にあたっては切らないように細心の注意を払いながら、ヘッドを外すのですが…
それでもやってしまいます。幾度かメカニズムの脱着をしてしまったので、ケーブルにだいぶストレスを掛けてしまいました。
なんとか補修して今も動いていますが、また切れそうでヒヤヒヤしながら様子を見ています。
2つ目は、壊れやすいこと。これだけ緻密な構造になっていれば、壊れやすくなります。
特に矢印で指したベルトは駄目になりやすいです。
このベルトは、テープの巻取りに使うほか、ヘッドの回転にも使われます。もしベルトが伸びてしまうと、ヘッドが回転しなくなるどころか、デッキがエラーになり操作が不可能になってしまいます。
しかもヘッドを回転させる時がベルトに最も負担が掛かります。つまり、力が要るということです。
仮にこのような状態に陥っても、分解せずさっとベルトを交換できるような設計になっていれば嬉しいのですが、残念ながらGX-R88はそう簡単に直させてはくれません。
ベルト1本駄目になっても、あの頭が痛くなるメカニズムを分解しなくてはなりません。修理だけでなく、維持も大変な1台です。ちなみに上位機種のGX-R99も同じ構造です。
第2位 Nakamichi 1000ZXL
第1位が1000ZXLと思った方、ごめんなさい。第2位です。
実は、難易度自体は滅茶苦茶難しいというわけではありません。なのに何故第2位かというと、一つだけ怖いものがあります。なんだと思いますか?
正解は、
プレッシャーです。
このデッキだけ、作業中の緊張感がビックリするくらい違います。
僕はどちらかといえば大雑把な性格ですが、なぜかこの時だけ几帳面になってしまうという、なにかのオーラを感じさせるのが1000ZXLですね。
ゲームでいえばラスボスみたいな存在です。しかしラスボスでも、コツさえつかめば意外と簡単攻略出来たりします。スーパーマリオブラザーズの砦にいるクッパよりも、途中にいるハンマーブロスの方が厄介、そんな感じです。
緊張感がある分、無事に直せた時の達成感は別次元です。マリオの中でも最高難易度と言われている「マリオ2」を全ステージクリアできた時の感動と同じくらいかもしれません。
…さっきからマリオばかりに例えてすみません。
デッキの性能は流石、最高峰に相応しいものを持っています。
今だとCD以上の音域を再生できることをハイレゾなんて言ったりしますが、1980年にカセットテープで既にハイレゾの音域を録音再生可能にしてしまっているという、モンスターですね。
第1位 AKAI GX-F95
GX-F71のような配線の複雑さと、1000ZXLのようなオーラがハイブリッドになっている感じです。
まずメカを外すには1本1本はんだを外すのは当たり前。それでいて、定価が20万円近いデッキですので緊張感も並み程度ではありません。
もちろん、このデッキはオートテープセレクターが付いているので、配線の本数もかなり多いです。1本1本配線に印をつけたら、1本1本接続場所を写真で記録して…
鑑識かよ!
でもそれくらいやらないと、後で非常に困ることになるのでしっかり記録します。鑑識の仕事が終わってようやく配線を外しにかかると、メカニズムを取り外すだけでも1時間くらいかかってしまうと思います。
メカニズムの分解はそれほど難しくありません。部品点数が多いか少ないかでいえば、多い方です。GX-R88のようにオートリバースではないので、どちらかといえばスッキリしています。
そして一番厄介なのは、これです。
ボタンが押せない!
このデッキのボタンには導電ゴムが使われています。ボタンを押すとこのゴムがつぶれて電気が流れ、操作ができるという仕組みです。しかし、経年でゴムが硬くなってしまって押せなくなります。
これは困った!
というわけで録った作戦が、ボタン式への改造です。
表面実装タイプのボタンを使うわけですが、どうやってボタンを押すか。
実は導電ゴムには突起が付いています。それでいて、ゴムはかっちかちに固くなっている。
ということは、硬くなったゴムを逆手にとればボタンを押せる! ということで、こんなボタン式への改造が実現しました。
その後、GX-F90にも応用できて、しかも汎用的な部品を使って修理ができるので、コストを押さえつつ特殊な故障を直せる点ではメリットは大きいと考えています。
さらにこのデッキには、オートチューニング機能が付いています。ボタンを押すだけで、バイアスや録音イコライザーの調整を自動でやってくれるという、1000ZXLにも引けを取らない画期的な機能です。
ただ、そのままチューニングボタンを押しただけでは上手く調整してくれるとは限りません。オートチューニングの動作を調整してあげることも必要です。
黄色で囲った基板にオートチューニングを行う回路があります。よく見ると、調整用の半固定抵抗がついています。ここで調整できるのですが、さくっと出来るものではありません。トライ&エラーで、最も上手く動作するポイントを見つけるという、チマチマとした作業もこのデッキには必要です。
こんなハイテクな機能が搭載されていて、生まれ年は1981年です。1000ZXLと並んで、GX-F95も怪物デッキと言っても過言ではありません。
まとめ
今回紹介した5台のデッキですが、ランクインした共通の理由が2つあります。
まず1つ目が、構造が複雑であること。配線が多くてメカニズムの取り外しに時間が掛かったり、仕組みが難しすぎて分解に時間が掛かったりする点がポイントです。
5台に限らず、どのカセットデッキでも共通することですが、壊れるのは決まってメカニズムの部分です。アンプなどの電気系が壊れることは少ないです。あっても接触不良くらいです。
となれば、難しいデッキを攻略するために必要な能力?というと、実は空間能力だったりします。頭の中で、メカニズムの仕組みがイメージできるかどうかです。
逆にいえば、電気系の知識はあまり必要ないかもしれません。僕自身、電気系には少し疎いです。
もう1つは、ズバリ価格です。デッキの価格が高ければ高いほど、プレッシャーが大きくなります。
いくら構造が難しくなくても、落ち着いて臨む必要があります。緊張していると、誰しもうっかりミスをやってしまうことがありますよね。そんな時は、ゆっくりゆっくり、一歩ずつ進めていくことが大事だと思っています。
と言っておきながら、僕のメンタルは非常に弱いです。「もやし」と比喩されるほどです。
さて、修理が難しいカセットデッキTOP5をご紹介しましたが、ランキング外でも難しいデッキはあります。はたまた、さらに難しいデッキと遭遇したらランキングが更新されるかもしれません。
でもやっぱり、カセットデッキは構造が十人十色で面白い!