【KX-880G】ここにも居たか!馬鹿にできない2ヘッドカセットデッキ

 

こんにちは、西村音響店でございます。

高音質なカセットデッキといえば、やっぱり3ヘッドでしょ!…と言いたいところですが、実は2ヘッドでありながら3ヘッド並みの音質や性能を持っている、ちょっと変わったデッキも存在します。

例として、ナカミチのLX-3(2ヘッドながらデュアルキャプスタンを採用)だったり、AKAIのオートリバースデッキ(3ヘッドと同等の構造になっているツインフィールドヘッドを搭載)があります。

それくらいかなと思いきや、ケンウッドにも居ました。

今回ご紹介するのは、KX-880G

音はもちろんですが、分解してデッキの構造や設計にも着目していきたいと思います。

 

 

3ヘッドに引けを取らず。高音の伸びは天晴れ。

実はケンウッドの音を聴くのは、KX-880Gが初めてです。

正直な心境として聴く前は、

「2ヘッドだし再生ヘッドもアモルファスだから、まぁそこそこの音だろう。」

と、若干軽い気持ちでした。しかし、再生ボタンを押すと見事に裏切られました。

 

まぁよく上(高音域)が伸びること。

KX-880Gの音だけ聴いていただくのもよいですが、メドレーで他のデッキと比べると3ヘッドデッキに十分健闘していることがわかります。

 

【KX-880Gの音】※1000ZXLで録音したスーパーメタルマスターを再生

【音質メドレーの動画】※TEAC V-7000の次がKX-880Gです。

2ヘッド方式に使われる磁気ヘッドは、録音と再生の役割を兼用できるような設計になっており、物理的に高音域が伸びにくいです。となれば、アンプ側の方で色々と工夫が必要になるのではないかと思います。

とはいうものの、キャビネットを開けると特に身が詰まっているわけでもなく、雰囲気からして回路もそれほど複雑ではなさそうです。

なのに結構イイ音が出るという…アンプが良いのか磁気ヘッドが良いのか、僕もよく分かりませんが予想よりも音が良かったのでちょっとビックリです。

 

音揺れ(ワウフラッター)の少なさも特徴的です。テープの送り出しはシングルキャプスタン方式ですが、デュアルキャプスタン並みの安定性を誇ります。その理由は後ほど…

資料がないので正確な値ではありませんが、先代のKX-880SRⅡのワウフラッターは0.027%(WRMS)です。これは凄い!

自己録再(デッキで録音した信号音で測定する方法)での実測値では0.037%前後でした。良い値です。

なお、自己録再での測定結果は、基準テープ(テストテープ)での測定結果の√2倍になるとされています。試しにカタログ値の0.027%に√2を掛け算してみると、0.03814%になります。

なぜ√2倍になるかは僕も分かりませんが、だいたい計算が合います。ならば実測値を√2で割れば、カタログ値を推測できるのではないでしょうか。ちょっと計算してみましょう。

0.037% ÷ √2 = 0.026163

ということは、KX-880Gのカタログ値としては0.025~0.026%の性能であると思います。

 

いやぁ、恐ろしい。

 

繰り返しになりますが、KX-880Gはシングルキャプスタンです。個人的にはシングルキャプスタンが最もテープを安全に送ることが出来る方式だと考えています。

デュアルキャプスタンの方が音揺れは少ないですが、テープの送り出し(俗に言うテープパス)の調整が必要で少々煩わしいです。上手く調整しないとテープを痛めてしまいます。それもそのはず、あんなに細くて薄いテープを2つのローラーとキャプスタンで挟み込むなんて、緻密以外の何者でもありません。

一方シングルキャプスタンは、煩わしい調整も不要なのでテープを痛める心配も減ります。となればKX-880Gは音質だけでなく、テープの走行安定性にも優れていると言えます。

 

録音に必要な機能を妥協していない点もポイントです。安めのモデルとはいえ、しっかりキャリブレーション(録音レベル・バイアス)ができます。

安いグレードのデッキはバイアスしか調整出来ないことが多く、特にノイズリダクションを使って録音する時に少々物足りないと感じることがあります。でもKX-880Gなら、そんな心配はありません。

 

 

壊れにくいタフなメカ。その理由は○○○がないから。

オーディオ機器である以上、音質の良さは大事なポイントでもあります。中でもカセットデッキはロボットのような複雑な構造を持ち、オーディオ機器の中でもちょっと変わった存在です。

となれば、耐久性だったり壊れにくさも気になるところです。ということで、ここからはデッキを分解して構造を分析していきましょう。

 

まずはメカニズムを本体から外します。車に例えるならば、サスペンションやトランスミッションといった走行に欠かせない足回りの部分です。

 

こちらがKX-880Gのメカニズムです。早速分解していきましょう。画像をクリック(タッチ)すると分解がスタートします。

 

さてここで皆さんに、一つ見つけて欲しい部品があります。分解が終わって部品を並べた写真の中に、恐らくゴムベルトがあるはずです。どこにあるでしょうか?

 

 

必死に探してしまった方、ごめんなさい。

実は、KX-880Gにはゴムベルトが1本も使われていません。

 

ゴムベルトが伸びたり切れたりすることは、カセットデッキならよくあります。当然、ベルトが駄目になってしまえば満足に再生が出来なくなってしまいます。

しかしKX-880Gはゴムベルトすら無いので、その心配はありません。

無いものは壊れない。

 

ゴムベルトを使わずに済んでいるのは、ダイレクトドライブ(D.D.)を採用しているお陰です。先ほど、音揺れの少なさを取り上げましたが、これもD.D.のお陰です。

D.D.でシングルキャプスタンという構成が、僕としては最も理想的な構成だと思います。正直なところ、ワウフラッター0.02%台になると音揺れは殆どわかりません。ならば余計な機構が付いていないシングルキャプスタンの方が安心だねという考え方です。

 

さらに再生ヘッドを上下させる動作も、ベルトを使わずに歯車とレバーだけで行う設計になっています。ベルトを介して動作を行うデッキに対しては、大きなアドバンテージになります。

じゃあ、全部ベルト無しの設計にすればよかったのに!

と思ってしまうところですが、歯車だけで動作させるとなると設計の自由度が低くなってしまうことが欠点です。ベルト1本で動力を伝えられるところが、歯車だと幾つも噛み合わせなければならず、構造も複雑になりやすいです。

そのような観点で、KX-880Gは歯車をメインに使った構造ながらコンパクトな設計になっているところが良いポイントになっています。

 

さらにさらに、今度はテープを巻き取る部分です。この部分は、ゴムタイヤか歯車のどちからの方法で回転させますが、KX-880Gは歯車です。ゴムを使っていないので劣化の心配はありません。

正確にはプラスチックも劣化するので、中には破損してしまうものもありますが、事例としては少ないです。

というわけでKX-880Gのメカニズムは、ベルトを1本も使っていない設計が大きな特徴です。カセットデッキの中でもこのような設計の機種は殆ど居ません。居てもTASCAMの122MKⅢくらいです。(同機種は歯車がボロボロに割れてしまうしまう事例が多く見られます)

 

強いてKX-880Gが壊れる可能性がある部分を挙げるのであればこれでしょうか。

こちらのモーターです。再生ボタンを押すとこのモーターが動いて、ヘッドが上がる仕組みになっています。

実はヤマハのK-1xwに同じモーターが使われており、壊れて動かなくなってしまう事例を確認しています。となれば、このKX-880Gももしかしたらモーターが壊れて動かなくなる事も、考えられなくもないと思います。

ただ、別なモーターに交換が可能なので、もし壊れてしまっても焦る必要はありません。延命は十分に可能です。

 

 

ただしボタン交換はコツを知らないと苦労する。

メカニズムは比較的壊れにくい設計になっていましたが、ボタンが反応しにくくなる症状はどうしても避けられません。

というわけで古くなったボタンは交換する必要があります。ボタン交換自体は、はんだ付けが出来る方なら誰でも出来る作業です。

しかし、ボタンが付いている基板を取り外すことが難しい。

この事はどのデッキにも共通することですが、わざわざ今回取り上げたのはそれだけ理由があります。

 

KX-880Gのボタン交換は、まず操作ボタンのパネルを外します。2本ネジとツメで固定されています。

さぁ、ここでクイズです。

2本のネジのうち、1本は矢印の部分です。もう1本はどこにあるでしょうか?(正解は画像をクリック)

 

さすがに僕もこの隠し要素には参りました。スーパーマリオブラザーズで例えるならば、隠しブロックを見つけないとタイムアップを待つだけになるという状況です。

ただどう考えてもネジで固定されている感触があったので予感はしていましたが、こんな隠し方は初めてみました。

 

ようやく基板を外すことができ、無事にボタンを交換できました。

実はまだ手を付けていないのですが、上位機種のKX-1100Gが居ます。恐らくこのデッキも、同じように隠しネジが使われていることでしょう。でももう二回目となれば容易く作業できると思います。電源が入らないのが気がかりですが…

 

 

まとめ

今回、初めてケンウッドのカセットデッキを分解整備しました。

見た目は大した容姿ではありませんが、いざ再生してみると結構イイ音が鳴ります。デッキの特徴をコンパクトに表現するのであれば、内柔外剛でしょうか。良い方向に期待を裏切ってくれたデッキでした。こういったデッキって、どこか惹かれます。

デッキを高音質・高性能にしようとすると、たいていは3ヘッド方式になりますからね。2ヘッドのままブラッシュアップするデッキは少数派です。そしてナカミチLX-3のように、異常なくらいブラッシュアップすると少数派を飛び越えて変態デッキの類に入ります。

ただ、平成に入ると5万円台でも3ヘッド方式を採用したデッキが登場してきます。それまでは2ヘッド方式の座だった5~6万円台のポジションを奪われてしまったと考えると、低価格デッキの考え方も変化していったとも見ることができるのではないでしょうか。

昭和・・・2ヘッドで高性能を目指す。

平成・・・3ヘッドでコストダウンする。

皆さんはどちらを選びますか?