皆さん、こんにちは。西村音響店です。
カセットテープのポジションと言ったら、4種類あります。
「ノーマル」「クローム(ハイポジ)」「メタル」
そして…
「フェリクローム!」となるところですが、残念。今回はちょっと違います。
今回の主役となるデッキはAKAI GX-F90。1980年のモデルにも関わらず、フェリクロームテープには対応していません。
それでも、ポジションの切り替えが4種類あるので、何かなと思って切り替えると【LH】【LN】というポジションが。
今回は、今年(2020年)に新発売されたマクセルURも交えて、LHとLNの差について注目していきたいと思います。
ノーマルテープはLHとLNに分類。
ノーマルテープは、さらに2種類に分けられます。
LH(ローノイズ・ハイアウトプット)とLN(ローノイズ)。
もっと簡単な表現すると、冒頭のサムネイルにある通り、
「音楽用か、それ以外か。」
です。
※最初期は3種類だったそうですが今回は割愛します
TDKのテープで例を挙げると、音楽用がAD、それ以外がDです。
ADとDは同じノーマルテープですが、音質にものすごく差があります。少し極端な表現かもしれませんが、ADは高音域までしっかり出るけど、Dは声を録音するのがやっとという感じでしょうか。
使ったことがある方なら、きっとこの差をご存知だと思います。そもそも用途が全く違いますからね。
ホワイトノイズを録音したときの周波数特性をチェックしてみても、差は明白です。
発売年が離れているので、同年代同士の比較よりも差が少し大きいかもしれませんが、同じノーマルかよ!というくらい差があります。
(データを採取していなくて1986年のADのものを用意しました)
そのためにデッキに付いているのが、LNポジション。テープセレクターを一番左にまわすとLNポジションです。LNポジションに切り替えると、安いテープのDでもADに近い特性に変わります。
GX-F90の取扱説明書を見てみると、テープセレクターの選び方が記載されています。
「Dを使うときはLNにしなさい。」と解説されています。太字のテープが基準テープということで、LNはD、LHはUDが基準テープになっているようです。
ちなみにフェリクロームテープは、再生はできるようですが、録音については何も書かれていません。再生のみの対応のようです。録音も不可能ではありませんが、テープの性能を発揮できないために推奨はされないでしょう。
さて、Dはかなりバイアスを少なくしないと高音域が出ません。ソニーのCHFも同類です。でもLNポジションにすれば、回路が切り替わってLHよりもバイアスが少なり、高音域が出るようになります。
LNポジションのお陰で、DやCHFといった高性能ではないテープも、そこそこな音で録音が可能です。厳密にはバイアスだけでなく、イコライザーの特性も切り替わっているような気がしますね。
ただ、そこそこの音で録音できるようになるとは言っても、やっぱり音楽用には良いテープを使いところです。
しかし!
中にはやむを得ず使っていたという方もいらっしゃるかもしれません。
「オレ、その時学生でカネ無かったからDで我慢してたよ…」
メタルテープにちょっと憧れていた青春時代、あなたはありましたか?
新型URを使うなら、LH?LN?
さて、LNポジションに切り替えると、安いテープでもそこそこの音で録音ができるようになることが分かりました。
では今年(2020年)に新発売された、マクセルのURはどうなのでしょうか。
過去に、新旧URで音質、性能、特性などを比較する企画を行いました。その時に特徴的な違いの1つに、バイアスの調整方法がありました。
新型の方がバイアスをかなり少なめに設定する必要があって、GX-F90で録音するならLHかLN、どっちがいいのだろうと思った次第です。
百聞は一聴に如かず。
両方のモードで録音してみました。はたして、音にどれくらい差が出るのでしょうか。
開始37秒あたりでLHからLNに切り替えます。高音域の変化に注目です。ノイズリダクションはONです。
【新型UR】
ちなみに録音したオリジナルの音源がこちらです。これとテープの音を比較してみて、LHとLN、どちらが近いでしょうか?
【オリジナル音源】
音源:「魔王魂」
今度はホワイトノイズを録音したときの周波数スペクトルで比較してみましょう。理想的な特性は、低音域から高音域までグラフが真っすぐになる平坦な特性です。
別のデッキですが、こんな感じのグラフが理想です。
さて、GX-F90と新型URの相性やいかに。
う~ん、際どいところです。
LHポジションでは、ややグラフが右下がりになっています。少し多めにバイアスが掛かっていて、高音域が弱くなってしまっているような印象です。
一方、LNはグラフが右上がりになっていて、少し高音域が強調(ハイ上がり)されているような特性を示しました。LNはちょっとバイアスが少なめかな?といったところです。
ところで、先ほど耳で聞いた感じはいかがでしたでしょうか。恐らくLNポジションにした時の方がイイ音で聞こえてきたと思います。
最終的に耳で聴いた感想で決めるとなると、新型URはLNポジションで録音した方がよさそうです。
A・ちょっと音がこもる方がよい
B・ちょっとハイ上がりになる方がよい
の2択になったら、後者のほうがまだいいですよね。ちょっとハイ上がりした程度なら、時間が経てば「あぁ、イイ音で録れてるじゃん」となって、恐らく気づかなくなると思います(笑)
自分の耳を信じるか、測定データを信じるかは、人によってそれぞれだと思います。僕はどちらかというと自分の耳派です。もちろん理屈や理論も大事ですが、最終的には聴いて満足できるかが一番だと思います。
LHとLNに分けるには何かワケがありそうな…
今回はAKAI GX-F90に付いている2つのノーマルポジション【LH】と【LN】について取り上げました。
音楽用のテープはLH、それ以外の安いテープはLN、という使い方でよいと思います。
しかし、なぜノーマルテープだけ、LHとLNに分類して差別化のようなことがされているのかが不思議に思うところです。
録音に必要なバイアス量の違いやノイズの大きさといった、技術的な要素で分類するのは理解できますが、なんとなく他にも理由がある気がします。
特に1970年代前半のノーマルテープをざっと見ていると、でかでかと「Low Noise」や「HIGH-OUTPUT」などと記して差別化を図っています。メタルテープどころか、フェリクロームテープも登場していない時代です。
よく考えてみると、確かにLH・LNで分けなかったら、ノーマルorクロームの2択になってしまいます。
そこで、LN < LH < クローム の3階級にして、いわゆる松竹梅にすれば、販促の面からしても良かったりして…(あくまで僕の推測です)
そしてメタルテープが登場すると、ノーマル・クローム・メタルの松竹梅になります。
時代とともに「LowNoise」「HIGH-OUTPUT」の文字がどんどん小さくなっていく様子が、LHとLNを区別する重要さが薄れていくことを物語っているように思いますね。
さて、今回は今年(2020年)発売のマクセルURを使うとしたら、「LHかLN、どっち?」という考察もしました。
僕の感想では、LNポジションで録音した方がイイ音になるということで、LNグレード相当のテープになると思います。
新旧比較のレビューでも取り上げましたが、新型のバイアス調整はかなり少なめの設定になり、デッキによっては調整範囲ギリギリになりました。もう少しバイアス調整に余裕があれば、音質のコントロールに融通が利いてPerfectなんですけどね。
高音質を求めようとすると欲深くなってしまうところですが、引き続きカセットテープを生産してくれることには感謝しなくてはなりません。
令和の時代でも気兼ねなく使えるテープであってほしいと思っています。
機材協力:埼玉県 まささん
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