皆さん、こんにちは。西村音響店です。
カセットデッキはオーディオ機器の仲間ですから、音質の良さは大事な要素です。でも、実はもう一つ大事な要素があります。
それは、メカニズム。
いつもご覧いただいている方ならご存知だと思いますが、メカニズムはいくつもの細かい部品で構成されています。緻密な部分が多いゆえ、壊れやすい部分でもあります。
そこで今回のテーマは、「壊れにくさ」です。
タイトルにあるように、今回は静かなメカとうるさいメカを比較します。
カセットデッキの再生ボタンを押すと、「ガチャンッ!」と音がするものもあれば、「ウィーン」と鳴るくらいで殆ど音がしないものもあります。
動作音だけで比べたら静かなメカの方が良いかもしれませんが、実は一長一短です。
両者ともに長短あり。どっちを選びますか?
カセットテープを回すためのユニット、それがメカニズム。
メカニズムは、主に2つのタイプに分類することができます。
①静かなメカ
②うるさいメカ
前者は俗に「サイレントメカ」と呼ばれます。平成世代のデッキは皆このタイプです。
一方、後者は1970年代後半~1980年前半に多くみられます。「マイコン制御」や「ロジック制御」というキャッチコピーが登場した頃だと思います。
それでは、各タイプの長所短所を詳しく見ていきましょう。
静かなメカ
まずは静かなメカの長所から。この2つが挙げられると思います。
◎静かなメカの長所 ・動作音が静か ・テープにやさしい |
ここでの動作音は、主に再生ボタンを押したときに発せられる音です。再生ボタンを押すとヘッドが動くことはご存知だと思います。カセットホルダーのリッド(カバー)を外して操作してみると、その様子を見ることができますね。
ポイントは、ヘッドをどういった仕組みで上昇させているかです。
サイレントメカの場合は、モーターでヘッドを上昇させる仕組みが使われています。モーターを回転させると、ゴムベルトやギヤを介して、ヘッドを上下させるという仕組みです。
静かなものは、デッキの傍に居ないと聞こえないほどです。
モーターの回転に合わせてヘッドが動くので、例えば回転をゆっくりにしてあげればヘッドもゆっくり上昇します。
これか可能なのも、このタイプの大きな長所。テープとヘッドをゆっくり接触させることができれば、テープにも優しいですね。
一方、静かなメカの短所は何かというと…
△静かなメカの短所 ・ゴムベルトの劣化で壊れやすい。 |
ゴムベルトを使うことは最大のメリットでもあり、最大のデメリットでもあります。ゴムベルトは劣化しやすい代表的な部品の1つです。
特に小さく細いベルトであるほど劣化しやすく、壊れやすい傾向にあります。
年とともにメカニズムの構造がちゃちくなっていき、仕舞いには「あえて壊れやすく作ってるだろ!」と嘆きたくなるほど、細くて小さいベルトが使われるようになります。
俗に、なんちゃらタイマーというヤツです。
うるさいメカ
特に俗称がある感じではなさそうですが、今回はうるさいメカと呼ぶことにしましょう。
先ほどの静かなメカが新型とすると、こちらは旧式のメカです。旧式だからと言ってダメな部分ばかりと思いきや、そんなことはありません。
しっかり良い部分があります。むしろ、うるさいメカの方が好きという人もいると思います。
うるさいメカの長所がこちら。
◎うるさいメカの長所 ・動きが素早い ・壊れにくく頑丈。 |
うるさいメカの特徴的な部品が、ソレノイドです。
エナメル線が巻かれた筒に、鉄の棒が入っているだけのシンプルな動力部品です。電気を流すと、電磁石の力で鉄の棒が筒の中へ引っ込みます。動作は一瞬です。
うるさいメカはこの動力を使うので、「ダンッ!」という大きな音とともにヘッドが上昇します。
ソレノイドは瞬間的な動作が得意なので、操作ボタンを押したときの反応が非常に早いという点がポイントです。
そして何より、構造が単純であるために壊れにくい点が最大のメリット。ソレノイドに繋がっているのは、たった1本のレバーだけです。
このレバーを動かすことでヘッドが動きます。ゴムベルトを使っていないので、劣化のしようがありません。
さらにソレノイドの強烈な動力に耐えるために、レバーは金属製であることが多いです。実はプラスチックも経年劣化する素材の1つで、仕舞いには破損してしまうケースもあります。
ゴムだけでなくプラスチックの部品も少なくすることも、壊れにくさを高めるうえでのポイントになります。
一方、うるさいメカの弱点は、
△うるさいメカの短所 ・消費電力が多い ・テープを痛める懸念 |
再生中はヘッドを上げ続けるため、ソレノイドにずっと通電している必要があります。その間、電気をバクバク食っていきます。
デッキの消費電力の大半がソレノイドに食われているといっても過言ではないかもしれません。デッキによってソレノイドの大きさが違い、大きいほど消費電力も多くなります。
そしてもう一つの弱点が、テープを痛めてしまう恐れがあること。再生ボタンを押すと一瞬でヘッドが上昇するほど素早い動作が可能ですが、その反面、勢いよくテープに当たります。
静かなメカに比べて、再生を始めてからテープの走行が安定するまでに時間が掛かります。その間にテープを痛めてしまうかもしれません。
うるさいメカの場合は、できるたけ途中から再生するのは控えたほうが良いでしょう。
壊れにくいデッキの例
これまで見てきた中で、最も壊れにくそうな構造をしたデッキを1台ご紹介します。
(若干、レンタルデッキのCMになって恐縮です。)
「壊れにくい 且つ 音質も良い」というデッキなら、こちらを推したいと思います。
このデッキだけでなく、次の4台も同じ構造のメカニズムを搭載しています。なお、先ほどまでご紹介したうるさいメカの写真は、この一族のものです。
・TC-K555ESⅡ ・TC-K555ESX
・TC-K333ESR ・TC-K555ESR
さすが、ソニーの上位クラスのデッキともあって、音質は素晴らしいです。音質も素晴らしいですが、メカニズムも頑丈で信頼性が高そうな設計になっています。
むしろメカニズムの信頼性で見たら、フラッグシップのスリーセブン(同世代ではTC-K777ESⅡ)よりも優れていると思います。
こちらがTC-K333ESXのメカニズムですが、とにかくゴムの部品が少ない! ピンチローラーはカセットデッキの必需品なので置いておきますが、ゴムベルトが1本だけという少なさです。
ゴムベルトが1本だけというデッキは他にもありますが、キャプスタンがダイレクトドライブ方式か否かで劣化具合が大きく変わります。
ダイレクトドライブ方式の場合、ベルトを窮屈に取り付けなくてもよいので、その分長持ちします。
少し極端ですが、30年以上経っているにも関わらず交換しなくても問題ないくらいのレベルです。
そして、テープの巻取りを行う部分(アイドラー)です。このデッキは、ギヤでテープを回すタイプです。
ここがゴムタイヤになっているデッキでは、回るたびにゴムが減っていきます。タイヤ交換の要領で、すり減ったら交換が必要です。
スリーセブンがゴムタイヤを使うタイプなので、この部分はメカニズムの丈夫さという面で333ESXに軍配を上げたいところです。
さらに、この部分にも秘密があります。
このギヤには力を逃がすためのクラッチが付いています。分かりやすく言い換えれば安全装置です。まさにその名に相応しい工夫が施されています。
特に、早送りや巻戻しの時です。巻き終わりになると、「ガンッ!」という音とともに勢いよく止まりますよね。この時がギヤに最も負担がかかり、運が悪いと破損に至ってしまうかもしれません。
でもこの安全装置があれば、余計な負荷を逃がすことができます。分解しないと判らない部分ですが、ギヤを労わるための嬉しい仕掛けです。
ただ、いくら壊れにくい構造であっても、すでに製造から30年以上経過しています。固着して動かなくなっているものも少なくありません。
そういった場合には、一度オーバーホールを行ってリフレッシュする必要があります。
一旦リフレッシュしてあげれば、うるさいメカの長所を十分に引き出すことができます。
ただ、ヘッドが摩耗しやすいところが唯一の泣き所…
メカニズムが動かなくなる前にヘッドが先に駄目になってしまうかもしれません。
どこかのタイミングで、ヘッドを移植する必要が出てくると思います。もしかしたら、コンビネーションヘッドに交換せざるを得なくなるかもしれません。
カセットデッキは壊れにくさも大事。
オーディオ機器なので、やっぱり音質は大事。
でも、カセットデッキは精密な機械部分を多く持っているということで、壊れやすい機器でもあります。
だから、壊れにくさも大事なポイントです。
今回は、静かなメカとうるさいメカで、各々の長短を取り上げました。なお、機種によって構造が千差万別ですので、あくまで傾向的なお話としてご参考にしていただければ幸いです。
ただ、次の3つのポイントを満たしているデッキは、壊れにくいデッキであると言えると思います。
・ゴム部品が少ない ・構造がシンプル ・プラスチック部品が少ない |
「音質★★★★★ 壊れにくさ★★☆☆☆」というハイスペックなデッキも良いですが、
「音質★★★☆☆☆ 壊れにくさ★★★★☆」というデッキも選択肢としてアリだと思いますよ。