クルマでいう兄弟車といえば…
トヨタのヴォクシー・ノア・エスクァイアの三兄弟?
それともアルファード・ヴェルファイアの通称アルヴェル兄弟?
といった形で、外観そっくりで車名が違うというクルマがありますね。
まぁ車好きの人は、JZX100系の三兄弟の方がピンと来るでしょうか。マークⅡ・チェイサー・クレスタですね。それか、日産のシルビアと180SX。足して割ってシルエイティ?
余談はさておき、実はカセットデッキにも兄弟機種が存在します。
今回ご紹介するのはTEACの兄弟デッキ、V-9000とR-9000です。二人あわせて「TEAC9000兄弟」。
違いを簡単に紹介すると、V-9000はワンウェイの3ヘッドでアモルファスヘッド搭載、R-9000は3ヘッドオートリバースでパーマロイヘッド搭載。
他にも細かな機能の違いはありますが、何と言ってもスゴいのはアンプが両者とも全く同じであること。
つまり音質に差が出るのは、ヘッドの違いだけということになります。これはちょっと面白い比較ができそうということで、今回検証してみましょう。
カセットデッキの兄弟機種の定義(?)とは
そもそもカセットデッキで兄弟機種という概念が広く認知されているかはわかりません。もしかしたら僕が勝手に呼んでいるだけかもしれませんので、一応?マークを付けておきます(笑)
僕の考え方としては次の3つの条件を満たすものを兄弟機種と呼んでいます。
・同じグレード・価格帯
・販売時期が同じ
・一部機能に相違があるだけで基本設計は同じ
例えば、AKAIのGX-93とGX-73は兄弟機種とは呼びません。機能の差としては、dbxノイズリダクションの有無や、クォーツロックD.D.の有無があります。それ以外の部分、アンプやメカニズムなどは全く同じです。しかし、GX-93とGX-73で価格帯が違います。
こういったラインナップの物は、兄弟ではなくグレード違いに分類されると思います。メルセデス・ベンツのSクラスに例えるなら、S500とS400という感じでしょうか。上位モデルから機能を色々と省略して下位モデルを設定するラインナップの仕方は非常に多いですね。
そう思うと、カセットデッキにおいて兄弟機種と言えるものは少ないと思います。ましてや、V-9000とR-9000ほど完璧な兄弟は本当に少ないと思います。他に居るとしたら同じTEACのV-970XとR-919Xくらいでしょうか。
V-9000とR-9000の違いをおさらい
まずは両者で違う部分をまとめました。重要な違いは、走行方式と録再ヘッドですね。録音の際に関わってくるバイアスの周波数や、ブランクスキャン機能の有無にも差はありますが、正直そこまで重要ではないです。
違う箇所 | V-9000 | R-9000 |
---|---|---|
ヘッド構成 | コンビネーションヘッド+消去ヘッド | 回転コンビネーションヘッド+消去×2 |
録再ヘッド | コバルトアモルファス | ハードパーマロイ |
走行方式 | クローズドループデュアルキャプスタン | オートリバース |
バイアス周波数 | 210kHz | 150kHz |
ブランクスキャン | なし | あり |
それ以外は全く同じです。メカニズムの構造からアンプの回路まで、全部同じです。
それではちょっと、幾つか写真で見比べてみましょう。
今回の比較のメインとなる録再ヘッドです。R-9000はオートリバースということでヘッドが回転しますが、コンビネーションヘッドの形状は両者とも一緒。しかし素材は、アモルファスとパーマロイで大きく違います。
音質の違いは後ほど詳しく紹介しますが、もう1つ違うのは耐摩耗性です。摩耗に強いのは断然アモルファスです。ただ、アモルファスといっても様々な種類がありますので、一概に摩耗に強いと断言はできません。実際に、肉眼ではっきり判るほどすり減っているアモルファスヘッドも存在します。
TEACのアモルファスヘッドは、僕が何台か確認している限りでは摩耗しているものは比較的少ないです。
録再ヘッドに続いて重要ポイントとなるのがアンプです。画像を見比べて違いが分かりますか?
回路自体は両者とも全く同じですが、実は違いがあります。探してみてください。難易度はIQ120ですけどね(笑)正解はこの記事の一番したにある動画をご覧ください。
V-9000はクローズドループデュアルキャプスタン、R-9000はオートリバース、ということでゴムベルトの掛け方が違います。キャプスタンホイールは両者とも全く同じです。
ベルトの掛け方とキャプスタンモーターの回転方向を変えて、V-9000とR-9000の機能を切り替えています。
両者とも基本構造は全く同じメカニズムを搭載していますが、オートリバースのR-9000には1つ特殊装備があります。
カセットホルダの左側に付いている基板です。消去ヘッドがフォワード用とリバース用2個付いている関係で、どちらの消去ヘッドを有効にするかをこの基板で切り替えます。切り替えるといっても、ヘッドの回転に連動するレバーが物理的にスイッチを操作して切り替えるというシンプルなものです。
【音質チェック】アモルファス vs パーマロイ
ではいよいよ音質チェックです。録再ヘッド以外はほぼ全く同じ条件という、ここまで完璧な検証ができるカセットデッキはなかなか無いです。
今回の比較検証では、純粋に再生の時の音で比べます。したがって、録音は予め別のデッキで行っておきます。録音にはA&DのGX-Z9000と、メタルテープのTDK MAを使用しました。
できるだけ生に近い音でお届けするためにWAV形式(非圧縮音源)でもご用意しています。通信環境がよい方はぜひWAV形式でお聴きください。
生の音源
まずは録音する前の音源がどんな感じに聞こえるかをチェックしてみてください。
【MP3 320kbps 2.5メガバイト】
【WAV 96kHz-24bit 40.5メガバイト】
デッキで再生した音
それでは予め録音しておいたメタルテープを、2台それぞれで再生してみましょう。果たして音にどんな違いが出るでしょうか?
※古いテープのため、あいにく所々音飛び(ドロップアウト)が発生しています。ご了承ください。
V-9000
【MP3 320kbps 3.2メガバイト】
【WAV 96kHz-24bit 52.5メガバイト】
R-9000
【MP3 320kpbs 3.2メガバイト 】
【WAV 96kHz-24bit 52.4メガバイト】
僕が聴いた感想ですが、「アモルファスのV-9000は低音重視」「パーマロイのR-9000は中高音重視」という風に、音質にかなりの差が出ていると思います。
V-9000は若干ソニーのESG世代以降の音に感じがしました。ベースとバスドラムの音がよく聞こえてきます。どちらかというと、ドッシリとした感じの音になりますね。
ちなみに後継モデルのV-8000Sもアモルファスヘッドですが、こちらはそこまで低音は強くありません。上手いことバランスを取っている感じの音になっていて、V-9000はTEACの中でも低音がやや強く出るデッキかなと思います。
一方、R-9000はサックスとトランペットの主張が強いです。何となくナカミチの音に近い感じがしますね。音のパワー感でいうとR-9000に軍配が挙がるでしょうか。
ナカミチも一貫してパーマロイヘッドを採用しているということもあって、中高音域が強く出るデッキが多いです。過去に聴いたナカミチの音を思い出してみると、R-9000の音はなかなか似たような感じになっていますね。
曲の別の部分で比較
それでは別の部分で比較してみましょう。曲の中盤に楽器がギター・ベース・ドラムだけになる部分があります。特に低音域の違いが分かりやすい部分だと思いますので、ちょっとチェックしてみましょう。
V-9000
【MP3 320kbps 1.8メガバイト】
【WAV 96kHz-24bit 30.4メガバイト】
R-9000
【MP3 320kbps 1.9メガバイト】
【WAV 96kHz-24bit 29.6メガバイト】
先ほど聞いていただいた曲の序盤はR-9000の方が気に入りましたが、この部分に関してはV-9000の方がしっくり来ます。ロック系はV-9000の方が合いそうですね。逆にR-9000はオーケストラやフュージョンに向いていると思います。
ダンスミュージック系(特にトランスやEDM)になると、重低音と高音が非常に強いので、R-9000だとちょっと高音が鳴りすぎて耳障りになるかもしれません。電子音が多い曲は、意外とアモルファスヘッドのデッキの方がバランスが取れたりします。
ただ、アンプの設計次第でいくらでも音を作れてしまうので、一概に「アモルファスヘッドだから○○」「パーマロイヘッドだから××」というわけではないですけどね。
一長一短があってこそ兄弟機種!
今回の比較検証では、ヘッドの違いによる音質の差がはっきりと表れた結果になりました。両デッキともTEACの最上位モデルですが、それぞれに長所短所が違って、最高の兄弟デッキだと思います。
他のデッキでもヘッドだけ載せ替えることができれば、今回のような比較検証っぽいことは可能です。ただ、若干改造の範疇に入ってしまうのでちょっと現実的な実験ではなくなってしまいますけどね。
いずれにしても、やっぱりネタが詰まっているカセットデッキはとても面白いです。変態デッキって呼ばれてしまうヤツもいますからね(笑)
それでは、また。(・ω・)ノ
使用機材
デッキ
・TEAC V-9000 (1989年製) 協力:あっせいさん
・TEAC R-9000 (1989年製) 協力:船野さん
・A&D GX-Z9000 (1987年製)
⇒レンタルでご提供中。詳しくはこちら。
テープ
・TDK MA (1990年ごろ)
使用楽曲
・音作品創作工房ナッシュスタジオ MN-M-0427
動画バージョン