西村音響店

再生は決まっているが録音は自由。カセットテープのEQ定数

カセットデッキのいろは 第36回

 

こんにちは、こんばんは。西村音響店の西村です。

音響店のブログをお読みくださり、ありがとうございます。

今回は、『カセットテープのイコライザー定数』について取り上げてみたいと思います。


 

カセットテープを使っていた皆さん、あるいは今も現役だ!という皆さん、こんな表示をよく見ませんでしたか?

 

 

『 TYPEⅠ(NORMAL)POSITION / NORMAL BIAS 120us EQ 』

『 TYPEⅡ(CrO2)POSITION / HIGH BIAS 70us EQ 』

『 TYPEⅣ(METAL)POSITION / METAL BIAS 70us EQ 』

 

 左から順に、テープの磁性体の種類、録音バイアスの強さ、再生イコライザー定数が記されています。

 ですが、恐らく気にせず使っている方が多くいらっしゃるのではないかと思います。

 なぜなら、カセットをデッキにセットするだけで、自動的に設定を切り替えてくれるからですね。

 

 今回は表示の一番右にある、『 120us EQ 』『 70us EQ 』について掘り下げてみましょう。

 実は、カセットテープの利便性を守るための重要な役割を果たしています。

 

 

120usEQ,70usEQは、再生イコライザーの定数

 いきなり『定数』という数学チックな単語が出てきましたが、簡単に言うと『固定されている数値』のことです。単位はusと書いて『マイクロセカンド』と読みます。

『マイクロセコンド』や『マイクロセック』という呼び方もあります。

 今回の題目に『再生は決まっている』と挙げましたが、まさしくその通りなんです。カセットテープの再生では、規格によって設定値が固定されています。

 その設定値がイコライザーです。略して『EQ』とも表します。

 イコライザーは、音の低音と高音のバランスを取るものと思っていただいて大丈夫です。この設定値だけは、どのカセットデッキでも同じになっています。

 

カセットテープは高音域を強めて録音されている

 実は、カセットテープにそのまま音が録音されているわけではありません。例えば、CDからカセットに録音する際には、CDの音をそのままそっくり録音しているわけではないのです。

 磁気テープの材料となる磁性体の特性を活かすために、一度イコライザーに掛けています

 カセットに録音するときには、イコライザーによって高音域が強調されたあとに、磁気ヘッドに信号が送られてテープに記録されます。

 再生するときは、録音の時に高音域が強調されていますから、強調した分だけ弱めてあげる必要があります。

 

 先ほど、120usと70usの2種類の数値が出てきましたが、これは再生時にどれだけ高音域を弱めるかを意味する数値です。数値が小さくなるほど、弱める量が多くなります。

 カセットテープには、『ノーマル・ハイポジ・メタル』の3つがある事はご存知だと思います。

 規格では、ノーマルが120usハイポジとメタルが70usです。

 つまり、ノーマルよりもハイポジ・メタルの方が高音域がより強く録音されており、再生する時に高音域を弱める量も多くなります。

TypeⅢフェリクロームは、70usです。

 

再生のEQ設定だけは決めておかないと大変なことになる

 もし、録音するときも再生するときも、イコライザーの設定を自由に変えることができたら、どうなるのでしょう?

 仮にそれが可能であったら、カセットテープは使い物にならなかったはずです。

 例えば、デッキAとデッキBで、再生イコライザーの設定が違うと、録音したときの音ではなくなってしまいます。高音域が異常に強調されたり、逆に籠った音になるかもしれません。

 つまり、録音したデッキでしか再生できないという状況になります。

 

 「同じカセットデッキでも、他のカセットデッキで再生出来ない…」

 「友達から借りたテープを再生したら音がおかしい!」

 これではたいへん不便です。

 

 そのために、再生時のイコライザーの設定は規格によって決められているのです。

 コンパクトに表現すると、『互換性を保つため』です。

 

安いラジカセでハイポジ・メタルを再生すると耳が痛い

 耳が痛いというのはオーバーな表現ですが、1万円以内で買えるラジカセでハイポジやメタルテープを再生すると、高音域が異常に強調された音で再生されます。

 理由は、ノーマルテープしか使えない仕様になっており、諸々の設定もノーマルテープ用になっているためです。

 ノーマルの設定では高音域を弱める量が足りないため、高音域が強調されたまま再生されてしまいます。オーディオ用語では『ハイ上がり』という状態です。

 やむを得ないときは、もしラジカセに『トーンコントロール』の調整が付いていれば、調整で間に合わせることもできます。

 しかし、ヘッドを早く摩耗させてしまうなどの影響があるので、できれば元から対応しているカセットデッキを選ぶほうが良いと思います。

 

録音のイコライザー定数はないの?

 ありません。

 きっちり決められているのは、再生だけです。つまり、録音の時は自由に設定を変えることができます。

 実際に、カセットデッキの機種によって設定値が異なっています。仮に、録音まで固定してしまったら、カセットテープには必ずある、性能のバラつきに対応できません。

 カセットテープの最終目標は、

 

決められた再生イコライザーの設定で良い音が再生されること

 

 この目標だけしっかり押さえておくと、カセットテープの録音が上達します。

 録音に使うカセットテープに最適な設定をしてあげることで、テープが持つ性能をぐんと引き出すことが可能です。

 

まとめ

 今回は、イコライザーの定数についてお話ししました。

 ポイントは、再生の設定はルールできっちり決められている事です。自宅で録音したテープを車の中で聞けるのも、ルールが決められているお陰です。

 昔のカーオーディオは、カセットテープでしたね。僕が小学生のころ(十数年前)は、まだカセットでした。CDは一応ついていましたが、いつの間にかCDを読まなくなり、カセットを使わざるを得なかった事も覚えています。

 何故かMDは使いませんでした。家族代々カセットテープを使っていたので、カセットが主流だったみたいです。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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第37回 カセットデッキは自己録再では面白くない!目指すは自録他再。

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第35回 メタルテープの録音はバイアス調整で音質を変えてはいけない。

 

 

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