今回はヤマハの3ヘッドカセットデッキ、KX-690のご紹介です。
KX-690はヤマハのカセットデッキの中でも、かなり新しいモデルになります。1997年ごろからの販売で、ドルビーSを搭載しています。高級機種でもなく、廉価クラスと中堅クラスの間に位置しているような微妙なグレードですが、3ヘッド構成、デュアルキャプスタンといった、カセットの高音質に欠かせないメカニズムをしっかり採用しています。また、オートキャリブレーション機能もあり、とても高機能であることも特徴です。
こちらのKX-690は、ちょっと外装にガタが多くありますが、快適に動作するように分解整備を行いました。
さらに難点として、入荷した個体は電源コードが切断されており、こちらも対処が必要です。解体したデッキから流用して対応することにしました。
メカの取り外しをします。フロントパネルは、カバー内にあるつまみを全て抜き取る必要があるくらいで、特に難しいことはありません。フラットケーブルが使われているので少々ケーブルの取扱いには注意です。
KX-690のメカになります。3モーター構成でありながら、あまりサイズは大きくありません。動作音も小さいサイレント構造です。
KX-690というと、自身が所有しているKX-690もあります。今回は、同時進行で所有機の方もメンテナンスをすることにしました。ちなみ所有機の方は昨年の2月から使用しています。
こちらもメカを降ろします。また一度も全て分解して点検をしたことがありませんので、丁度良い機会になりました。
元々のモータードライバICを故障させて代替品を取り付けていましたが、ツェナー電圧による出力電圧調整が出来ないため、解体したデッキから純正のLB1649を取り付けました。.
ツェナーダイオードを、異なる電圧の物に交換することで、リールの回転速度や、メカのレスポンスを高めたりなどが可能です。リールの回転は、再生時と早巻時でそれぞれツェナーダイオードを用意し、トランジスタで電圧を切り替えています。
メカの分解に入ります。まず扉とシールドを外し、この様な状態にします。アイドラはギヤ式、バックテンション用ブレーキがフェルトで、何となくSONYのサイレントメカと似ている部分も見て取れます。
背面側からモーターを外します。メカ動作用の小さいベルトは、ここの取り外しだけで交換が出来ます。キャプスタンベルトも同様に交換できます。ベルト交換がしやすいのは嬉しいですが、オーバーホールを必ずするのであれば、あまり関係ないかもしれませんね。
キャプスタンホイールが重量のある物になっていて、回転安定性も良いです。ベルトは若干弾力性を失っていて表面がつるつるし、スリップしやすい状態になっていました。ベルトも新品に交換します。
こちらは所有機のメカですが、先ほどのモータードライバーICの代替品の関係で、トルクが強く鳴りすぎないように直列に抵抗を入れていました。今回純正のICに戻すので撤去することになります。小さな基板は、リールセンサー、カムスイッチです。
リール台の取り外しです。もの凄く小さいストッパーを取って、リール台を引き抜きます。
残りはヘッドの取り外しです。中央の銀色の金属板が遊ばないように支えています。ここを取り外せばヘッドをブロックごと取り外すことができます。このような構造は多くのデッキで採用されています。ヘッド単体だけを取り外すのはNGです。
全分解が完了しました。難易度としては簡単な方かもしれません。3モーター構成としてはベーシックですので構造が分かりやすいと思います。
付着していたグリースは全て拭き取り、新しいグリスに交換します。エタノール、シリコーン液、グリースの3点セットで潤滑を行います。
キャプスタンモーターの点検です。常に回転し続けているタイプで、リールモーターほど負荷は掛かりませんが、やはり摺動で発生した鉄粉が付着しています。電解コンデンサの方も、新品に交換しておきました。
リールモーター、メカ用モーターも点検します。リールモーターはやはり汚れが多いです。ここが回転不良を起こすと再生中や録音中に突然止まる恐れもあります。特に低速回転なので電流も多く負荷が大きくかかりますね。シャフト部分にも潤滑をしておくと、より回転がスムーズになって回転音も静かになります。
各部品の清掃と潤滑が完了したら、取付けていきます。
KX-690に使われるゴムベルトですが、キャプスタンには直径75mmの平ベルト、メカ用の小さい方には直径20mmの角ベルトが最適です。
入荷したデッキの方も、ご覧のように全分解を行いました。部品点数も少ないでしょう。込み入った機構など、写真でも分かりにくい構造があると難易度が高くなってしまいます。
2台のKX-690のメカです。あとはそれぞれケーブルを接続して動作するか確認し、分解の際にピンチローラーを取り外したのでテープパスの調整をします。
テープパス、アジマスの確認中です。私の方法ではご覧のように、複数のテストテープを使います。これらのテープに10kHzの正弦波、ホワイトノイズが記録されており、これを再生してオシロスコープ、周波数スペクトルで確認します。複数の測定結果を客観的に見て、一番バランスよく再生できる調整位置に設定します。
切断されていた電源コードを取り換えて通電が出来るようになりました。上が今回入荷したKX-690、下が所有機です。また写真には撮っておりませんが、ボタン(タクトスイッチ)も交換しました。ボタンの劣化で違うボタンの信号になることがありますので、是非交換しておきたい箇所です。