こんにちは。西村音響店でございます。
今回、ご紹介するのはTEAC V-6030S。山形県の”cote211さん”からご依頼いただきました。ありがとうございます。
3ヘッド方式のデッキとしては最後の方の機種になります。そろそろ21世紀が近くなり、各社とも最後の高性能カセットデッキを展開していた頃です。
21世紀に入ると、パソコンなどのデジタル機器が普及し、カセットデッキの役目は終えました。しかしTEACは令和になってもコンポーネント型のカセットデッキを製造中ですから驚きです。
さて、今回のV-6030Sは他所で既に修理されており、動作は問題ない状態です。ただ少し、再生スピードが速いとのことでした。
スピードの問題であれば調整で済むところですが、今回の作業コースはメカニズム完全分解から電子部品交換までのフルコース。そして、スーパーGXヘッドへの交換も行うことになりました。交換した理由は後ほど。
まずはオーバーホールしましょう。
それでは、メカニズムをオーバーホールしていきましょう。
メカニズムを降ろすには、フロントパネルを外す必要があります。外したら、配線とネジを外してメカニズムを外に出します。
一世代前のV-8000SやV-7000などは、フロントパネルを外す必要がなく、非常にメンテナンスのしやすい構造になっています。ただ、デザインはV-8030S・V-6030の方が個人的には好きですね。
メカニズムを降ろせたら、カセットホルダーの取り外しから入ります。パワーローディング(電動開閉)のユニットも一緒に外すのがポイントです。
同ユニットには、モーターの配線1本とスイッチの配線2本があります。あまり線を捩ったりすると、はんだ付けの部分から切れます。断線の心配があるときはタイラップで結束しておくと、後々面倒になりません。
こちらはキャプスタンモーターですが、毎回必ずこの角度で写真を撮ります。なぜでしょう?
理由は、はんだを吸い取って配線を外すので、後で判るようにするためです。しかしそれは何時もの事です。ここで強調したいことは、配線が電源であることです。12Vの電源が掛かります。
この程度では余程あり得ないと思いますが、仮に配線を逆に繋げばモーターが壊れる恐れるかもしれません。不要なモーターで一瞬だけやったことがありますが、普通に逆回転します。それよりも、内蔵回路のトランジスタを壊してしまうことが一番ダメなことです。
この部分に限らず、印付けと写真の2重で記録してミスを予防しましょう。一応、モーター本体にも+-の印がありますが、「念には念を入れよ」です。
キャプスタンモーターを外したら、先に前側の巻取り軸を外します。そのあとに、後ろ側に残っている部品を一つ残らず外していきます。
巻取り用モーター、回転センサー、メカ作動用モーター、リーフスイッチと部品があります。これらは配線を接続したまま、まとめて外します。綺麗に一つずつに分解したいところですが、配線がのれん分けのようになっていて少し複雑です。後で分からなくなるくらいであれば、無理に分解する必要はありません。
後ろ側が分解出来たら、前側の部品も一つ残らず取り外して、完全分解完了です。
パーツクリーナーで部品を洗浄した後、新しいグリースを塗っていきます。V-6030Sは部品点数が少なく、比較的短い時間で終わります。
とあるデッキで洗浄に40分かかるとしたら、20分くらいで終わってしまいます。それだけ部品が少ないのです。サンキョー製メカニズムの特徴ともいえそうです。とにかく部品が少ない。
シンプルな方が壊れにくく、壊れても直しやすいです。
開閉ユニットも一旦分解して洗浄し、新しいグリースを塗ります。
元通りに組み立てます。はんだ部分が断線しやすいので、あまり配線を揺すらないように気を配りながら進めていきます。
基本的には、分解と逆の手順でOKですが、アシストモーターのユニットを取り付ける際にポイントがあります。
位置が少しずれてしまうと、ピンチローラーとキャプスタンが密着しないことがあります。メカニズムをデッキに戻す前に、綿棒などで触ってみてしっかり密着しているか確認します。もし密着していなかった場合は、アシストモーターを少し上目に取り付けなおします。
V-6030Sに限らず、このタイプのメカニズム共通です。
メカニズムをデッキに取り付けたら、適当なテープで試運転です。稀にですがモーターが寿命を迎えていて、途中でストップしてしまうことがあります。そのような時はモーターを交換することになります。
今回は数時間の再生でも止まることはなかったので、これでメカニズムの作業は完了です。
台湾製コンデンサーを交換する
V-6030Sは台湾製で、電子部品も台湾メーカーのものが使われています。特に電解コンデンサーは、頭部が膨張しているケースもありました。劣化が進行している証です。
別に台湾製だから悪いというわけではなく、電解コンデンサーは10~15年が寿命とされています。(使用環境にもよる)
強いて言えば、日本製のコンデンサーが丈夫過ぎるということです。
まずは、すべての基板をデッキから外します。
外すと中身がすっからかんになります。斜めに通っている黒いレバーが、電源スイッチです。
こちらが再生アンプの基板。
昔のものと比べものにならないくらいコンパクトになっています。
ドルビーSが搭載されている分、回路は大きくなっていますが、もしドルビーBとCだけにしたら半分のサイズで収まるでしょう。1980年代前半は、ドルビーだけでデッキ本体の半分近くの面積を使っていました。カセットデッキにも半導体技術の進歩が表れています。
台湾製の電解コンデンサーです。全部が全部、台湾製ではありませんが、半数以上使われています。
確認しきれていませんが、この年代のTEACは製造が台湾製になっていると思います。日本製であるのはTASCAMくらいではないでしょうか。
作業自体は、1個1個電解コンデンサーを交換していくだけです。単純といえば単純ですが、極性、耐圧、容量を1個ずつ確認してから交換していきます。原則、交換は1個ずつです。一度に複数個交換すると、付け忘れる可能性もゼロではありません。地味な作業ですが、コツコツやっていくのがコツです。
すべて交換が終わりました。
数えてみると99個になりましたが、だいたい数え間違いがあるので約100個です。6時間くらいあれば完了します。多い物ですと120個だったり、150個だったり。時間もまる1日近く掛かかることがあります。
電解コンデンサー以外にも、押しボタン(タクトスイッチ)の交換を行いました。
元々のボタンは少し押し心地が硬く、「カチッ」というクリック音も大きいです。新しく取り付けたボタンは、ソフトな押し心地で、パソコンのマウスのような盛大な音もしません。
スーパーGXヘッドに交換する
ヘッドの交換することになったきっかけは、ホワイトノイズを録音して特性を調べていた時のこと。
録音した後に巻戻して再生してみると、なぜか右chの高音域が落ちます。
左chも、上がったり下がったりと不安定です。何度クリーニングしても、何度消磁しても、何度調整しても、バックテンションを疑似的に強めても改善せず。
同時モニターでは、問題なさそうに見えるのですが、普通に再生したらおかしくなるという不可解な現象です。
幸い、V-8030Sから取り外したヘッドがあったため、移植してみることにしました。すると、高音域が落ちることなく左右均等に再生されました。
ということは、消去法で原因を探っていくと、残るのは物理的な原因です。最も嫌な、ヘッドの摩耗です。
基本的にヘッドの摩耗を原因とするのは、最後の選択肢にしています。多少摩耗したとしても、テープとヘッドがしっかり密着していれば、音のバランスが偏ることは無いためです。今回はいくら調整してもダメなので、最後の選択肢に辿り着いてしまいました。
V-6030Sに付いていたヘッドを、マクロ撮影でみてみましょう。
摩耗したヘッドに見られる、顕著な凹凸は見当たりません。一見したら問題なさそうですが…録音ヘッドの表面にある傷のようなものが気になります。
V-8030Sのヘッドに交換すれば、問題なく直ることがわかりました。しかし、交換ヘッドの選択肢がもう1つあります。それがスーパーGXヘッドです。すでに、僕のV-8030Sで実施済みのため、デッキさえ調達すれば可能です。
相談の末、スーパーGXヘッドに交換することになりました。
そうとなれば、ドナーとなるデッキを調達しましょう。ドナーはGX-Z6100、もしくはGX-Z6300EVです。できれば前者の方が作業がスムーズです。
GX-Z6100が調達できました。早速、スーパーGXヘッドを取り外して交換です。
メカニズムを降ろし、GX-Z6100からGXヘッドを取り外します。
そのままポン付け出来そうですが、V-6030Sと配線が異なるため付け替えが必要です。GX-Z6100ではグランド線が左右共通で1本、V-6030Sは2本となっています。
両デッキともメカニズムの脱着が容易ですので、作業はスムーズに進みます。1時間もあれば完了します。
さぁいよいよ、スーパーGXヘッドを取り付けたV-6030Sで試運転だ。
・・・
ところが、ここで大事件発生。
なぜか、音が左に偏って聞こえてきます。メーターで例えたら、右は左の2/3しか振れていない状況です。
このパターン、どこかで見たとことあるような…
もしや!?
綿棒で再生ヘッドの表面をなぞってみると、「ガリッ」。
ヘッドを取り外して、マクロ撮影してみると…
うわぁ~やられたぁ…
酷いことに、肉眼で確認出来てしまうほどの段差が出来てしまっています。再生ヘッドの真ん中あたりに、白い筋のようなものが横方向に走っているのが確認できると思います。これが段差です。
まさか6100でもあるとは思いも寄らず。
実は、スーパーGXヘッドが駄目になっている現象には、過去に2回遭遇しています。GX-Z9100とGX-93でしたが、この2機は録音ヘッドがやられていました。右chの録音レベルが上がりません。
確実な情報ではありませんが、摩耗しないはずのスーパーGXヘッドを研磨する業者がいたという話があります。
ということで、もう一台調達してきました。さすがに2連続でハズレはないでしょう。
ヘッドを外してマクロ撮影をしてみましょう。
今度は大丈夫そうですね。気を改めて、交換しましょう。
ホワイトノイズ録音で、同時モニター中と通常再生中の周波数特性を比べてみます。
ヘッド交換前に発生していた、高音域が落ちてしまう現象がばっちり改善されました。録音ヘッドと再生ヘッドにはアジマスに誤差があるため、テープによっては少し落ちることもあります。しかし、交換前よりはかなり改善されました。
僕が所有しているV-8030Sではこの現象が発生しておらず、中古カセットデッキの当たりはずれの怖さを痛感します。まさかGX-Z6100にも不良GXヘッドが存在することには落胆してしまいました。こんなものがオークションに出回っているとなると、ぞっとします。
(「ヘッドに段差があります」なんて書く人は恐らく皆無です)
交換後の音質は?
さて、最も気になるのが音質だと思います。元のアモルファスヘッドの時と、スーパーGXヘッドの時、それぞれの音をパソコンに取り込みました。「図太い音になった気がする」などと言われても個人的な感想ですので、みなさんで聞き比べみてください。
まずはNakamichi 1000ZXLで録音したMA-XGを再生してみましょう。
ヘッドの素材が、アモルファス系とフェライト系で全く違うので、音質も違うはずです。
重低音から高音域までわかりやすいアコースティック系の曲を再生してみます。
音源: 魔王魂 アコースティック12 (約1分半)
(交換前)アモルファスヘッド
(交換後)スーパーGXヘッド
では今度、スーパーメタルマスターではどうでしょうか。曲は重低音から超高音域までハイパワーなEDMです。
音源: D-elf Overcome Difficulties (約2分)
(交換前)アモルファスヘッド
(交換後)スーパーGXヘッド
今回のまとめ
今回の最大の問題は、ヘッドが不良になっていて録音が正常にできないということでした。
デッキの数は有限なので、極力移植をせず直したい故に試行錯誤しましたが、手が尽きてしまいました。
結局、最終手段である移植で直ったので、ヘッドが問題であることは確かでしょう。磁気的な損失なのか、録音ヘッドと再生ヘッドのアジマスエラーなのか。現在も疑問が残っています。
スーパーGXヘッドを搭載した新生V-6030S。ぜひ末永く元気であることを願うばかりです。