西村音響店

【マクセルUR】バイアス調整不可のデッキでイイ音で録る奥の手。

【マクセルUR】バイアス調整不可のデッキでイイ音で録る奥の手。

 

カセットテープにイイ音で録音するときに必須なもの。それが、バイアス調整

でも残念なことに、デッキにつまみが付いておらず、バイアス調整ができないデッキも存在します。特にダブルデッキや、低価格のデッキに多いですね。

『音質は高級機に勝るものなし。』

確かにそうなのですが、ちょっと待ってください。

実は調整用のツマミが付いていなくても、大半のデッキは調整できます。 ただデッキの表にはツマミが付いていないだけで、裏側にはちゃんとあるんです。(正確にはツマミではないですが…)

そんなわけで、今回は2020年発売の新型URをメインに、バイアス調整のツマミが付いていないデッキで無理やり調整する方法です。

 

新型URはバイアス調整が必須。

まずは新型URのテープがどんな特性を持っているかを把握しておく必要があります。

結論からいうと、「バイアスを相当少なくしないと高音が出ない」です。でも、なぜか旧型よりも大音量の録音に耐えるという、若干不思議なテープでもあります。

詳しくは、過去に新型URを詳しくレビューした記事がありますので、そちらをご覧ください。

 


今回用意したデッキは、ヤマハのKX-W600。オーソドックスなダブルデッキです。この手のデッキは、大抵バイアス調整つまみは付いていません。

さて、バイアスを相当少なくしなければならないということは、何も調整しない状態で録音するとどうなるでしょう?

 

 ― 殆どの場合で音が籠り気味になります。

 

実際に録音してみると、こんな音になります。特にドラムの音に注目していただくと分かりやすいです。

【ノイズリダクションOFF】音源:魔王魂

 

何となく歯切れが悪い音になっていると思います。

人によっては「まぁこんなもんでしょ。」となるかもしれませんが、問題ありません。大事なのは、今回ご紹介する方法を行った後にどう音が変わるかです。ですので、ひとまず聞いていただいた音を覚えておいてください。

ちなみに、ドルビーCを使って録音するとさらに音が籠ります。ここでは割愛していますが、ドルビーBでも同様です。

【ドルビーC】

 


測定データでも確認してみましょう。ホワイトノイズを-20dBで録音したときの周波数特性です。

このデッキの場合、16kHzまで真っ平なグラフになるのが理想ですが…

見事な右下がりです。このような形のグラフはバイアスが多い状態に見られる典型的なパターンです。

キャリブレーション機能付きのデッキだと、HIGHのメーターが▼印を下回るようなテープです。それもメーター1目盛2目盛どころではありません。

本来であればバイアスを少なくして高音が出るように調整したいところですが、今回はそれができない!

 

さぁ、どうしましょう?

 

我慢してそのまま録音するか、頑張って高級デッキを手に入れるか。

確かに高級デッキは素晴らしいですが、最近は中古でもどんどん高くなっている傾向にあります。特に人気のある機種は、ここ2~3年で数万円くらい高騰している印象です。

中堅クラスのデッキでも、修理費を含めて6~7万円くらいは必要かもしれません。

ならば、しばらく我慢するしかない…と思うのはまだ早いです!

冒頭にちょろっとお伝えした「裏側にはちゃんとある」がヒントになります。

 

 

蓋を開ければバイアス調整可能なデッキに変化。

では、ここからが今回のメインです。

バイアス調整つまみが付いていないデッキで、どうやって無理やり調整するか。

まずは、デッキの蓋(キャビネット)を開けます。


CAUTION!
ご自身でチャレンジされる場合は、どうぞ自己責任でお願いします。
万が一、デッキに何か不具合が生じたり、感電や火災などの事故が発生しても、責任はとれません。

蓋を開けると、基板が見えてきます。

人によっては頭が痛くなるような光景ですが…ごめんなさい。慣れてください(笑)まだまだこれは序の口です。

 

すべてのカセットデッキ(よほど特殊でなければ)には、基板に調整用の半固定抵抗という部品が付いています。矢印で示した部品です。デッキによって形状や色は異なりますが、必ず付いています。

これをドライバーで回すことで、バイアスのほか、再生レベル、録音レベルといった設定を変えることができます。

今回調整するのはバイアスですので、【BIAS】と書かれた半固定抵抗を探します。

また、今回のようなダブルデッキの場合は、左側のAデッキ用と、右側のBデッキ用で別々に調整できます。これを利用すれば、例えばBデッキだけUR専用のセッティングにしておくといったことも可能です。

 

ここでポイントです。

半固定抵抗を回す前に印をつけます。もし、どれだけ回したか途中で分からなくなったときに、すぐリセットできるようにするためです。

半固定抵抗に付いている、黄緑色の点々が付けた印です。

地味で不必要かもしれませんが、非常に重要です。回した量を分かりやすくする効果もあります。

色が透けないポスターカラーを使うのがおススメです。

 


これくらい回してみました。はたしてどんな音になるでしょうか?

 

【ノイズリダクションOFF】

調整前と比べてみて、どんな風に音が変わりましたか?恐らく、ドラムの音はよりはっきり聞こえてくるようになったと思います。

 

次はドルビーCを使って録音した音です。ドルビーCで上手く録音できれば、バイアス調整が上手くできていると言ってよいです。

【ドルビーC】

今回のデッキは2ヘッド方式ということもあって、3ヘッドの音質には物理的に敵いません。

それでもバイアス調整をしてあげれば、2ヘッドでもある程度ですが音質を改善させることができます。音質改善もそうですが、さらに根底にある目的は、デッキとテープのポテンシャルを引き出すことです。

 


最後にバイアス調整後の周波数特性を見てみましょう。

若干右下がりになっているのはご愛敬。それでも、理想的なグラフの形にかなり近づきました。

もうあと少しバイアスを少なくすれば、カタログの仕様どおり16kHzまで平坦な特性が出ます。

キャリブレーション機能付きのデッキで▼印に合うように調整すると、概ねこのような特性になります。でも残念ながら、すべてのデッキでこのようになるとは限りません。

詳しく説明しようとすると1記事書けてしまうくらいになるので割愛しますが、影響する要因は2つ。デッキのイコライザー特性の違いと、磁気テープの特性の違いです。

もっと簡単な言い方に変換すれば、デッキとテープの相性です。

 

 

BIASツマミが無いからといって諦めないで。

バイアス調整をすることで、しっかり高音域が出るようになるということは、もう言うまでもないと思います。

ですが、もっと効果が大きいのはノイズリダクションを使うときです。ドルビー方式では、録音時に高音域を強調し、再生時に高音域を減衰するという方法で処理を行います。

もし高音域がしっかり録音できていないと、再生時に必要以上に高音域を減衰してしまいます。すると音が籠ってしまったり、あの独特な息継ぎ現象(ブリージング)に繋がってしまうのです。

 

デッキの蓋を開けるのは少なからずリスクを伴いますが、効果は想像以上に大きいです。中古で1,000円くらいで買えるような安いデッキでも、そこそこイイ音で録れるようになります。

今回はバイアス調整に絞ってご紹介しましたが、さらに応用すれば、無理やりキャリブレーションなんていう事も不可能ではありません。

調整してイイ音にするのはもちろんですが、自分でデッキを調整する第一歩として挑戦してみてはいかがでしょうか。

 

動画バージョン

 

 

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