西村音響店

UNDERGROUNDのカセットテープ◇眠っていたUDⅠが目を覚ます!

UNDERGROUNDのカセットテープ◇眠っていたUDⅠが目を覚ます!

 

マクセルのUDⅠ。

TDKのADと並ぶ音楽用のノーマルテープです。きっとUDⅠも使っていた方は多いと思います。

さて、今回は読者のMさんからあるカセットテープを提供していただきました。

なんと、眠っていたUDⅠのデッドストックを使って限定販売されたカセットテープとのことです。それがこちら。

UNDERGROUND UDⅠ

DESIGN UNDERGROUNDさん(以下UNDERGROUD)から発売された、業務用カセットの本体に往年のUDⅠのテープを入れたスペシャルテープです。

UDⅠと聞くだけでもめちゃ音質が良いテープだから、思わず欲しくなります。実はこのテープの存在を知らず、Mさんから初めて教えていただきました。提供までしてくださって本当にありがとうございます。

ところが!

若干マニアックな人はどの世代のUDⅠが使われているかが気になるところです。

今回は本家UDⅠにも登場してもらいながら、徹底的にレビューしていきます。


 

見てくれは業務用テープ

パッケージはただ透明のフィルムに包まれているだけの簡素なものです。個人的にはこちらの方が嬉しいです。脱皮しても姿はそのまま。気軽に開封できる点がとても助かります。

昔はしっかりイラストが描かれたフィルムに包まれていましたね。これが今となっては開封するのがもはや儀式みたいになって、何故かちょっと緊張します。

 

1970年前半のテープを思わせるデザインです。手に持ってみた感じは、さすがに昔のような質感はありません。今どきのテープという感じです。

 

インデックスカードの表には、でかでかとUDⅠとアピールされています。

その下にあるアルファベットの羅列「HIGH POWER BLACK MAGNETTE PARTICLE」がこの後のヒントになります。

でもちょっと待ってください。

 

…なんかスペル違いませんか?

 

MAGNETTE

 

正しくは、「MAGNETE」もしくは「MAGNETITE」になるかと思いますが、

これじゃマグネットではなく、

マグネッティー。

これはこれでカッコイイかもです。高級車のマセラッティーみたいに伊太利亜っぽくて(笑)

 

そしてインデックスカードの裏ですが、残念ながらのっぺらぼう。

真っ白の無地です。もし曲目を書いておきたければ、自分で作る必要がありそうです。

インデックスシールもありません。ただ、このようなデザインをしたテープは、直接カセットに書き込むようになっているので問題ないでしょう。

 

テープの部分にいきましょう。リーダーテープはごく普通の乳白色です。若干安っぽい感じがありますが、リーダーテープは恐らく業務用テープのメーカーのものです。

マクセルのリーダーテープといえば、あの矢印マークですよね。残念ながら今回のテープにはありません。URの方ではまだまだ現役です。

そして最も気になるのが、磁気テープ。

真っ黒!

ハイポジとちゃうんか?と一瞬思いましたが、実際に録音してみるとちゃんとノーマルテープでした。

 

どの世代のUDⅠが使われている?

同じUDⅠでも年々進化を続けたため、世代によって性能が異なります。ということで、ここでどの世代のUDⅠが使われているが気になるところです。

今回は4つの世代の本家UDⅠに登場してもらい、比較してみましょう。

比較用に用意した本家UDⅠ

デッドストックを使っているのであれば、末期のUDⅠの可能性が高いと考えられます。ということで新しめのモデルを用意しました。本当はさらにもう1つ新しいモデルがあるそうですが、残念ながら準備できず。

さて、気になる結果ですが、並べるとこうなりました。

色からして1990年後期のテープが使われていると思います。末期のUDⅠってこんなにも色が黒いんですね。

パッケージの画像を見ていただくと、先ほど紹介したアルファベットの羅列があります。

HIGH POWER BLACK MAGNETITE Ⅰ PARTICLE

恐らくこれが磁性体の正式名称です。偶然のスペルミスなのか、訳あってそうせざるを得ないのか、それとも単にネタとしてそうしたのか。

訳ありというのは、ちょっと法的にマズい部分があってそうするしかなかったという事です。具体的に言えば商標権の有無ですね。

ちょっと調べてみました。

特になかったです(´・ω・`)

 

ちなみに商標の検索はこちらのサイトでできます。他にも特許・実用新案・意匠の検索が可能です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

 

UNDERGROUNDのテープ本体(ハーフ)は溶着タイプではないので、ネジを外せば分解できます。せっかくなので分解してみましょう。

うん、真っ黒!

もうパッとみただけではハイポジと間違えそうです。

一般的なノーマルテープは、音楽用でこげ茶色、安い物で赤茶色をしています。一方、ハイポジは真っ黒です。(厳密にはクローム系とコバルト系で若干違います)

ということは、ハイポジのテープをベースに、ノーマルとして使えるようにチューニングされている(?)のではないかと思います。

 

本家UDⅠと特性で比較

今度は本家UDⅠとUNDERGROUNDを、スペクトルアナライザーで特性を確認していきましょう。

性能チェックに使用するデッキは、A&DのGX-Z9000。ノーマルテープの推奨テープがUDⅠなので、相性はバツグンです。ただ、GX-Z9000が展開されていた1987年は、1983年発売のUDⅠがまだ継続して販売されていた時期です。

GX-Z9000で1983年のUDⅠを使う場合、バイアスつまみを±0でフラットな特性になります。

この状態を基準に、同じテープだと思われる1990年後期のUDⅠとUNDERGROUNDのテープを比較してみましょう。

このような結果になりました。

バイアス調整なしで比較(画像をクリックすると拡大します)

同じ結果になるかと思いきや、少しUNDERGROUNDの方が高音域が強いという結果になりました。

テープの磁性体が同じということであれば、残る要因はカセットのハーフの違いですね。テープの送り(走行)の精度に影響してきます。

 

そして、特性をフラットしたい場合はバイアスを多くする、つまりバイアスを右に回すのですが、やはり良い特性が出ます。

バイアス調整でフラットな特性にして比較(画像をクリックすると拡大します)

もともとA&DのデッキがUDⅠを推奨テープとしているだけあって、非常に美しい特性が出てきます。これが末期のUDⅠと同じ時期に展開されていたGX-Z9100EV(7100EV)だったら本領発揮することでしょう。

ほんの若干、UNDERGROUNDの方が傾きが右上がりになっていますが、実はバイアスつまみは右にMAXの状態です。さすが、最高性能のUDⅠは凄いですね。

 

…ちょっと待ってください。

 

言い方は少し悪いかもしれませんが、若干ちゃちいカセットのハーフで本家UDⅠに勝つのはちょっとおかしいです。絶対からくりがあるはず。

ということで、カセットを裏返してB面で試してみました。

やはり…予想していたことが起きました。A面とB面、不思議なことに特性が違います。

これはハーフの精度がイマイチのテープでよく起こる現象です。簡単に説明すると、表裏でテープとヘッドの接触する位置がずれてしまうために起きます。Made in Chinaのテープは顕著です。特性どころかA面は大丈夫なのにB面だけテープが絡まるとか…なかなかカオスです。

まぁ中華テープの話は置いておき、残念ながらハーフの作りでは本家に劣ります。昔のカセットハーフにテープを入れ替える方法も無くはないですが、さすがに限定カセットでそんな無茶はしたくありません。

 

もう1つ、どれだけの大音量に耐えられるかもテストしてみました。

フラットな特性にした状態で、315Hzの正弦波信号を録音します。徐々に録音レベルを上げていき、ひずみ率が3.0%になった時点でのレベルを見ます。専門用語でいうところのMOL(Maximum Output Level)です。

MOLの比較(画像をクリックすると拡大します)

なんとこのテストでは本家UDⅠに軍配が上がりました。やはりハーフの作りの差が出たのでしょうか。

カセットデッキは非常にシビアで、極端な話ですが、ヘッドとテープが接触する位置が1ミクロンでもずれると特性に誤差が出てしまうほどです。

 

録音するならHX-Pro付きのデッキを

さて、スペクトルアナライザーで具体的なデータで性能の高さを見てきました。もちろん具体的な数値データも大事ですが、最終的には耳でどう感じるかだと思います。

幾つかのジャンルの曲を録音してみました。今回はGX-Z9000での自己録再です。ノイズリダクションはOFFにして、出来るだけ録音レベルを上げています。メーターで+6~8dBまで振れるくらい、テープの性能いっぱいいっぱいまでレベルを上げて上手く録れるか試してみました。


楽曲:最後のEDMは「d-elf.com」より。他は「魔王魂」より。

やはりUDⅠのテープだけあって高音域はよく伸びますが、1点残念なのがデッキの方。GX-Z9000にはHX-Proが付いていません。

HX-Pro・・・音楽に含まれる高周波成分を検知すると、自動的にバイアス量を減らして高音域の劣化を防ぐ機能。

高音域もガンガンに伸びるかと思いきや、実は高音が強い曲では逆にバイアスを増やすような働きをしていまいます。バイアスを多くすると高音域が落ちるのはご存知だと思いますが、僅かですが曲に含まれる高音の成分もバイアスとして作用します。

なので、HX-Proが付いているデッキを使えばさらに良い録音ができると思います。せっかく大音量に耐えられるスペックを持っているのに、録音レベルを低くくしなければならないのは少し勿体ない感じです。

動画ではデッキのメーターを見ながら音質チェックをしています。ぜひ動画もご覧ください。

 

奇跡的にパンケーキ状態で残っていた

今回ご紹介したUNDERGROUNDのUDⅠ、驚くべきは製造前のパンケーキ状態で残っていたこと。分数に合わせてテープがカットされる前の状態です。

残念ながら限定販売ということでURみたいに恒久的に購入はできませんが、突如してレアテープが登場した感じです。

実はハイポジのXLⅡバージョンもあります。XLⅡはUDⅠのよりも先に完売となっていました。まぁXLⅡといったら凄いテープですからね。

もしかしたら他にも、日本のどこかに、はたまた地球のどこかにパンケーキが眠っているかもしれません。もう無いだろうと思っていたら、突如陽の光を浴びる時が来るかもしれません。

 

動画バージョン

 

今回の使用機材

デッキ

・A&D GX-Z9000(レンタルデッキで提供中)詳細はこちら

テープ

・DESIGN UNDERGROUND 限定販売UDⅠ(提供:Mさん)
・マクセル UDⅠ (1983年,1990年,1992年,1995年,1996年)

Return Top