西村音響店

SONYのDUAD◇「カセットテープは3種類!」なんて言わないで…

SONYのDUAD◇「カセットテープは3種類!」なんて言わないで…


 

カセットテープを使ったことがある人なら疑問に思った事があるかもしれません。

TypeⅠ、TypeⅡ、TypeⅣとあるのに

なんでTypeⅢが無いの?

 

別にわざと番号を飛ばしているわけではありません。ちゃんと存在します。それがこちら。

SONY DUAD

ソニーのDUAD。これは1978年頃発売されたもので、2代目のモデルになります。初代は1973年ごろの発売だそうです。

TypeⅢはフェリクロームと呼ばれるテープで、当時は最上級ランクに位置していました。しかし、1979年頃から登場したメタルテープにその座を奪われてしまいました。理由はズバリ、圧倒的にメタルテープの方が音質で有利だからです。

1980年代に入るとメタルに続いて、ノーマルやハイポジも音質や性能面でどんどん進化を遂げていきます。一方、フェリクロームは進化を遂げることなく一線から退いていきました。

僅か10年余りで幻となってしまったフェリクロームテープですが、現在はプレミアが付くほどの希少価値が高いものになっています。

今回はフェリクロームテープの代表であるソニーのDUADを主役に、音質や特性など色々とレビューしていきましょう。

 

改めてDUADを紹介

早速ですが外観から見ていきましょう。カセット世代の方ならもうこのデザインはお馴染みですね。青のAHF緑のBHF赤のCHFグレーのJHFと来て…

黄土色のDUADです。

最も重要なのが、磁気テープ。フェリクロームは、2つの違う原材料(磁性体)が2層になっているテープです。ノーマルテープ用の酸化鉄と、ハイポジ用の二酸化クロム。色で言うなら、茶色です。

2層のうち、上の層に黒の二酸化クロムがある構造のため、ご覧のようにテープの表面は真っ黒です。

でもハブに巻かれたテープを見てみると…

なんとなく茶色に見えませんか?

これがフェリクロームの大きな特徴です。実は磁性体が塗られている厚さも違います。簡単に言うと、ノーマルテープの表面に薄~く二酸化クロムを塗ったものと言ってよいです。

イラストに表すとこのような構造になるでしょうか。

茶色の酸化鉄の方が厚いので、ハブに巻かれた状態のフェリクロームテープは茶色に見えるというわけです。見る角度によって色が違ってみえるなんて面白いですね。

 

まだまだフェリクロームの珍要素があります。ここを見てください。

なぜかTypeⅠと書かれています。これはフェリクロームがノーマルテープとしても使えるということなのですが…実際本当に使えるのでしょうか?この後、実験します。

 

1980年代になってからは標準装備となったオートテープセレクター。恐らくもう察しが付くと思いますが、その頃にはフェリクロームは幻となっています。そんなわけで、フェリクロームはオートテープセレクターに対応していません。

検出孔も一切ありません。これではノーマルテープと認識されてしまいます。なのでテープセレクターが手動式のデッキが必須です。さらにはメーカーによっては手動式でも対応していないものも。

もしフェリクロームを自動認識させるとしたら、どんな方法があるんでしょうね(笑)

 

音質は数値には表れない何かがある

さて、気になる音質はどうでしょうか。なかなかDUADの音を聴くのが難しいので、耳にしたことがないという方も多いかもしれません。本当は生で体験していただきたいところですが、雰囲気だけでも感じてもらえたら嬉しいです。

録音に使うデッキは、1982年のSONY TC-K777ES。2代目スリーセブンです。

※40年以上前のテープのため、音飛び(ドロップアウト)などが発生する箇所があります


僕の感想としては、かなり好みが分かれるような音だと思います。メタルテープのような力強さはありません。今回用意した曲は力強すぎてフェリクロームには厳しいです。

ただ、音の繊細さはフェリクロームが勝っているように感じます。完全にジャズなどのアコースティック系の曲向きのような気がしますね。あとはクラシックでしょうか。クラシックといっても三重奏や四重奏といった静かなジャンルがよいと思います。オーケストラは迫力重視でメタルを使う方がおススメです。

 

周波数特性がどのようになっているかも気になりますので、見てみましょう。

TC-K777ES×DUAD 周波数特性
(画像をクリックすると拡大します)

いたって普通です。

フェリクローム対応のデッキなので、イコライザーも専用の設定が用意されていますからフラット特性が出てきます。しかし周波数特性は普通なのに、あんなにも変わった音質になるのかが不思議です。数値では表せない何かがあるのでしょうか。

さらにまた奥深いことに、初代のスリーセブン(TC-K777)で録音すると全く違う音質になります。初代の方は高音域の鳴り方がより綺麗で、こちらの方が透明感が高いです。2代目のスリーセブンは少し低音の出方も意識したような音でしょうか。

動画で初代と2代目の音質比較をやっていますので、ぜひ動画の方でチェックしてください。

 

本当にノーマルテープとしても使えるのか

先ほど少し紹介しましたが、TypeⅠと書いてあるということはノーマルテープとしても使えるということを意味します。しかし本当に使えるのでしょうか。

百聞は一聴にしかず。

フェリクローム非対応のデッキを用意し、実験してみました。

結論から言ってしまうと、

 

ちょっと無理かも(´・ω・`)

 

まず要因となるのがイコライザー時定数。フェリクロームの再生ではハイポジやメタルと同じ70μsを使いますが、無理やりノーマルの120μsを使う事になります。ノーマルしか使えない安いラジカセでハイポジを再生している事と同じです。高音域がやけに強調される、いわゆるハイ上がりの状態になります。

ところが、フェリクロームの録音に必要なバイアスはノーマルテープと同じくらいです。ハイポジの設定だとバイアスが多すぎて録音できません。

色々と設定が複雑なフェリクロームですが、整理すると

イコライザー ⇒ ハイポジの設定を使う
録音バイアス ⇒ ノーマルの設定を使う

ということになります。

ただ、カセットテープの録音にはバイアスが最優先ですから、最低限バイアス調整が合っていないといけません。ということで、フェリクロームをノーマルテープとして使える本当の意味は、ノーマルポジションで使えばバイアスの設定が合うので録音できますよ、という事になると思います。

 

それでは実際にフェリクローム非対応のデッキで実験してみましょう。まずは、オートテープセレクター搭載のTC-K555ESR

カセットに検出孔はありませんので、ノーマルテープと認識されます。

聴いていただく分かると思いますが、必要以上に高音域が強調されています。特にシンバルの音で耳がキンキンしそうな感じです。そんな耳がキンキンしそうな音質を、スペクトルアナライザーで確認してみましょう。

DUADをノーマルテープとして使った場合の周波数特性(TC-K555ESR)
(画像をクリックすると拡大します)

10kHz以上の音域でレベルがやけに高くなっていることが確認できます。さらに1~10kHzの中高音域は逆にレベルが低くなっています。見事なドンシャリの特性です。

グラフィックイコライザーで調整してドンシャリにするなら分かりますが、最初からこの特性です。(グライコでもここまで高音を上げる人っているのかな…?)

ちなみにですが、ご紹介した音はキャリブレーション機能で調整してから録音した音です。一応、メーター上では調整が合います。

しかし実際に周波数特性を見てみると、完璧なドンシャリ。

キャリブレーション機能は、特定の周波数でしか調整ができないので、仮にメーターが▼に合っても音質が全く違うということはよくあります。それにしてもこの特性は凄いですね。少し言い方は悪いかもしれませんが、相当クセが強いです。

 

オートチューニング機能は使える?

もう少し意地悪をしてみましょう。今度は、果たしてオートチューニング機能はフェリクロームテープに対応できるのか!?

いや、無理でしょ(´・ω・`)

まぁ、それもそのはず。オートチューニング機能搭載の殆どのデッキは対応していませんから。しかし「デッキに対応していません」と書いておくだけでは、ただの解説記事になって面白くないです。

ということで実験です。用意したデッキは、パイオニアのT-D7

もちろんノーマルテープとして認識されます。さぁこの癖が強いフェリクロームを上手く調整できるのでしょうか?

結果は…

 

一応できた!

 

一応ですができました。特にエラーも出ず、無事に調整が完了したようです。(このデッキの取扱説明書には、調整不可の場合にエラーが出るとのことです)

そして気になる音質ですが、やはり強いドンシャリ傾向になります。

 

(画像をクリックすると拡大します)

周波数特性も先ほどのTC-K555ESRと同じような形をしています。でもさっきよりはフラットな特性にしようとデッキの調整が頑張ってくれている感じです。若干ですがグラフの傾斜は少なくなっています。

頑張ってくれているとは言っても、さすがにノーマルテープ用の設定だと無理がありますね。いくらオートチューニングとは言えど、恐らく調整範囲いっぱいいっぱいです。

やはりドンシャリが余計に強く感じるのは、1~10kHzの音が絞られることが大きな要因だと思います。10kHz以上の音域はバイアス調整でなんとかなりますが、中高音域はイコライザー調整しか方法がありません。

 

1000ZXLではどうか!?

先ほど「オートチューニング機能搭載の殆どのデッキは対応していない」とお伝えしました。だったら最強オートチューニングの1000ZXLも一緒でしょ?と思うかもしれませんが、

ちょっと待ってください。

殆どのデッキということは1台くらい例外が居ます。そう、1000ZXLです。

 

実は1000ZXLには、テープセレクターがありません。あるのは再生イコライザーの70μsと120μsを切り替えるスイッチのみ。

ということで、フェリクロームに対応しているのかが分かりません。

取扱説明書にもフェリクロームの事は一切書かれていません。「ナカミチのEX、SX、ZXを使いなさい。」と書いてあるのみです。

ならば実験あるのみ!

実際にオートチューニングを試してみると、通常より15~20秒くらい時間がかかったものの普通に調整できてしまいました。やはりフェリクロームの特性が特殊なせいか、途中バイアス調整がやり直される場面もありました。

もしかしたら隠しモード的なものが動作して、フェリクローム用のセッティングになったのかもしれません(想像です)

気になる音質ですが、こんな音になりました。

こんな素晴らしい音になったということは、周波数特性もすごいはず。

(画像をクリックすると拡大します)

ヤベェ…(´゚д゚`)

これには参りました。1000ZXLはどんなテープでも25kHzまでフラットな特性に調整してしまう怪物ですが、まさかここまでやってしまうとは予想外です。改めて恐ろしさを実感しました。

 

TypeⅢの存在を忘れないで。

今回はSONYのDUADを主役に、フェリクロームテープの基本的な紹介から意地悪な実験までお届けしました。さすが10年余りで幻と化しただけあって、特殊な要素がいっぱいです。

そして一応ノーマルテープとしても使えるとなっていますが、やはり性能をフルに発揮するには

フェリクローム対応のデッキを使う。

これに尽きます。

カセットテープが純粋に好きな方なら是非一度、生の音を体感してほしいのですが、なかなか難しいと思います。冒頭にお伝えしたようにテープにはプレミアが付いていて、オークションの競争も激しいです。

またフェリクローム対応のデッキも準備するとなると、かなりのコストになるかと思います。

 

でも最後に一つだけ、生の音を聴けなくても覚えておいてほしいことがあります。それは、

カセットテープは4種類あったこと。

あまりにマイナーなので「カセットテープは3種類」と解説されることがあります。実際にそう解説されているメディアもありました。正直なところ、割愛して3種類としてしまっても差し支えはないですけどね。

でも真のカセット好きからしたら、「昔、カセットテープは3種類ありました!」なんて言われるとちょっと残念です…( ノД`)

カセットテープの事を聞かれたら、基本は3種類でOKですが、さり気なくフェリクロームの存在も教えてあげて下さい。

 

今回の機材

デッキ

・SONY TC-K777ES (1982年製) 協力:山菜きのこ汁さん
・SONY TC-K555ESR (1988年製) 協力:ペンタさん
・Pioneer T-D7 (2005年製) レンタルで提供中。詳しくはこちら
・Nakamichi 1000ZXL (1980年製) 協力:LuxFunさん

テープ

・SONY DUAD (1978年発売)

使用楽曲

・魔王魂 12345

 

動画バージョン

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