今回は半世紀前にタイムスリップしましょう。
近年になってカセットテープが再燃しつつあるようですが、肝心の再生機も必要になってきます。
2021年現在も、いまだに新品のラジカセが購入できるほか、TEAC(ティアック)という会社はいまだ本格的な据置型のカセットデッキを生産しています。少なくとも国内で唯一、新品で購入できる据置型カセットデッキです。
一方、中古市場には1980~2000年ごろに製造されたカセットデッキが数多くあります。もちろん、高級機や珍しい機種となると数は限られますが、それに拘らなければ沢山あります。もしリサイクルショップなどで、再生できる状態のものを安くゲットできればお買い得です。
しかしさらに古い年代のカセットデッキとなると、機種問わず現存数自体が少なくなります。そのうえ、修理しなければ動かないデッキが殆どです。
さて前置きが少し長くなりましたが、今回紹介するのは、希少な1970年代前半のカセットデッキ。しかも現役です。動きます!
こちら、TEACのA-350というカセットデッキ。発売されたのは1971年ごろで、今からちょうど50年前になります。今回、読者の方からお借りしたA-350は、1972年に製造された個体です。それでも2021年で、御年49。
そんな、とてつもなく古いカセットデッキの実際に再生される音を、今回お届けしたいと思います。
目次
TEAC A-350のポイントを簡単に紹介
日本で初めて○○を搭載したカセットデッキ
1971年頃に発売されたTEAC A-350。発売価格は51,800円という高級機種に値する1台です。
「51,800円なんて大した金額ではない」と思った方、ちょっと待ってください。
1971年当時と今では貨幣価値がまったく違います。ちなみに1971年当時の51,800円、現在の価値に変換すると、ざっと15万円※です。 ※CPI(消費者物価指数)を基に計算
さて、A-350にはおめでたい出来事が1つあります。小見出しにあるように、日本初の機能が搭載されています。それが、
『ドルビーノイズリダクション』
磁気テープ特有のヒスノイズを聞こえにくくするための信号処理を行う回路で、本格的なカセットデッキでは標準装備ともいえる機能です。これをA-350は、日本のメーカーとしては最初に搭載しました。
ちなみに世界初で民生向けのドルビーノイズリダクションを搭載したデッキは、米国Advent社の200だそうです。
こちらが初期のドルビーノイズリダクションの回路。普通は専用のICが使われまますが、この頃はすべて単体の電子部品で構成されています。当時の技術を総結集して作り上げられた回路です。
まさに職人技ですw(゜o゜)w
実際の現場を見たことがない…そもそもその時代に生まれていないので想像しかできませんが、熟練工が手作業で組み立てていたことと思います。
50年経っても平気なヘッド
カセットテープの再生に欠かせないヘッド。動いているテープと常に接触しているということで摩耗が懸念されますが、A-350はその心配がありません。その理由は、この黒いヘッド。
フェライトという素材が使われたヘッドで、非常にすり減りにくいです。当時の高級モデルに搭載されていることが多く、高級装備の1つだと思います。
マイクロスコープで確認してみても擦り減った跡が殆どなく、フェライトヘッドの丈夫さを物語っています。実はフェライトは、磁気ヘッドに使われる素材の中で一二を競う硬さです。
ちなみに僕がこれまでデッキを見てきた経験を振り返ると、フェライトヘッドで擦り減っているのは殆ど見たことありません。1台だけほんの僅かに減っていたくらいです。
日本ならどこでも使え…ません!
日本の家電製品の多くは、国内であればコンセントに差すだけでどこでも使えます。カセットデッキも一部の機種を除き、日本国内であればコンセントされあればどこでも使えます。
さて「一部の機種を除き」と言いましたが、実は日本国内でも使える地域が限られるデッキが存在します。A-350もそれに該当する1台。
理由は明治時代にさかのぼり…
ドイツ製とアメリカ製の発電機
にあります。
…まぁ遠回しな表現はともかく。いわゆる電源周波数の違いですね。日本の東半分向け(50Hz)と西半分向け(60Hz)で仕様が異なっています。なぜA-350がそのような事になっているかというと、使われているモーターにあります。
A-350に使われているモーターは、家庭用の100V電源を直接入力するタイプです。シンクロナスモーター、または単に交流モーターと呼ばれるタイプのものです。モーターの回転速度は電源の周波数によって決まるため、50Hz/60Hzの境目を超えた先の場所で使うことはできません。再生スピードが変わってしまいます。
どうしても使いたければ、電子回路の切替と機構部品の交換が必要です。
『地域と周波数』中部電力HP(https://www.chuden.co.jp/)より
希少な半世紀前のデッキの音です
今回は幸運なことにも、状態が非常に良いA-350を触らせていただけました。ぜひこの記事をご覧の方にも半世紀前の音を聴いていただきたいということで、実際に再生される音をお届けしたいと思います。
曲をA-350でテープに録音するとどんな音になるか、やってみました。
非圧縮の音声データのため、容量がかなり大きくなっています。スマホなどのモバイル機器でお聴きの際は、Wi-Fiに接続することをお勧めします。
【録音する前の音源】
<アコースティック系> WAV形式 96kHz-24bit 40.5MB
<エレクトロ系> WAV形式 96kHz-24bit 36.2MB
【A-350で録音した音】
<アコースティック系> WAV形式 96kHz-24bit 53.9MB
<エレクトロ系> WAV形式 96kHz-24bit 36.6MB
これが半世紀前のカセットデッキの音です。半世紀前の機械なのに、ここまでの音を鳴らします。これには驚きました。
決して絶対的な高い性能を持っているわけではありません。でも、アナログテープらしい分厚い低~中音域をよく鳴らしていると感じました。
後の年代になると、デッキの性能は上がっていく傾向にありますが、音質は若干CDに近いようなデジタルっぽい音になります。ただ、音質に関しては完全に好みの問題になるため、「性能がよい=音質がよい」とは必ずしも言えないところです。
最初は「3ヘッド=音が良い」という若干変な先入観に囚われていた自分が居ましたが、今回、A-350の音を聴いて衝撃を受けました。衝撃を受けて自分も同年代のデッキが欲しくなり、とうとう買ってしまうという…(;´∀`)
なにか、カルチャーショック的なものを受けたような気がします。
味がある’70sカセットデッキ
上からカセットを入れるデザイン、アナログな重たい操作レバーなど、’80年代・’90年代とは違ったカセットテープ文化を堪能することができました。
’70年代前半のデッキは、どこかお洒落な面もあるように思います。インテリアとして部屋の片隅に飾っても、家具にうまく溶け込んで違和感が無さそうな感じです。
音も絶対的に良いというわけではありませんが、「カセットテープの音」というイメージに最も近そうな印象でした。デジタルでは表現できないような味のある音ですね。
デッキの外観、メカニズム、音質など、’70年代のデッキには、数値では分からない魅力をたくさん持っていると思います。その魅力を知るには、やはり実際に触って体験してみるほかないです。
今回お借りしたA-350、テープの録音再生ができる他に、外観も非常によいコンディションを保っていました。特に金属むき出しで銀色に光っている部分は、白くくすんでいる事もなくメッキのようにピカピカでした。
僕はこのような極上品の状態を『博物館級』と呼んでいます。ぜひこれからも大事にしていってほしいですね。
それでは、また。(・ω・)ノ
使用機材
デッキ
・TEAC A-350 (1971年発売・今回は1972年製の個体) 協力:「あっせい」さん
テープ
・マクセルUR (2020年発売)
動画バージョン
動画内の「意味不明」という表現について、一部の視聴者の方から不適切とのご指摘がありました。今後は表現の選択に注意し、制作に努めます。申し訳ありませんでした。