2021年現在も、新品で販売されているテープといえばマクセルのUR。
初登場は1985年ごろということで、なんと約35年も販売され続けるという超ロングセラーという凄いテープでもあります。
さて、URは家電量販店やホームセンター、ディスカウントショップ、さらには薬局まで、様々な店舗に顔を出しています。現在も唯一新品で販売しているテープ、かと思いきや…実は海外に目をやると他にもあります。
そのうちの1本が今回ご紹介する『FOX』というテープ。
フランスのMULANN社が、RECORDING THE MASTERSというブランドで録音用の磁気テープを展開している中の一つです。現在も新規に製造されているテープの中では最高品質といわれています。
はたして、現在も生産中という括りでは好敵手ともいえそうなマクセルURと、どんな差があるのでしょうか? 本格的なカセットデッキを使って検証しました。
目次
東急ハンズ渋谷に売っていたFOX
FOXテープの存在自体は発売して間もない頃から知っていましたが、海外の製品ということでなかなか入手には至らず。ちなみに発売は2018年です。
そんな時に読者さんから「渋谷の東急ハンズに売ってました」という情報が。そして偶然にも情報を頂いたタイミングが、YouTubeのコラボ撮影で東京に居た時でした。
1本で1,100円です。輸入品でかつ小ロットのためか結構高めでした。ちなみに母国での定価は660円ほどです。
パッケージは炎を纏う狐をイメージするような力強い橙色。炎を纏う狐といえば…
Firefox!
Firefoxはインターネットを閲覧するアプリのことですが、一昔前に流行っていた記憶があります。今はどうなんでしょう? すっかりGoogleChromeが主流になりましたね。
カセット本体とテープ
録音時間は60分です。テープの種類はノーマル(TypeⅠ)。もう一つのタイムバリエーションとして90分があります。こちらは昨年(2020年)に発売されたばかりの新製品で、色がイエローになります。
手に持ってみた感じは、海外カセットらしい質感です。重たいわけでもないし、めちゃくちゃ軽いわけでもない。
全面透明のハーフを見ると、一瞬ピンク色の某100円ショップで購入したテープと同じじゃないかと思いましたが、さすがにそこまでチープではありません。中華カセットの方は、量りに乗せなくても手で持っただけで判る軽さです。
気になるテープの部分。
リーダーテープは、1970年代のソニーを想わせる色付きリーダーテープ。60分=赤、90分=緑、120分=青、という色分けがなされていたのが懐かしいと思います。
FOXは60分、90分ともに赤です。
磁気テープは特に変哲もなく、ノーマルテープらしい焦げ茶色をしています。
URとも比較してみましたが、ほとんど違いが分かりません。肉眼で若干URの方が赤みが強いかな?というくらいです。昔のローグレードテープのように立派な赤茶色だったり、ハイポジのコバルトブラックに近いような色ではありません。
インデックスカード
続いてはインデックスカードです。カセットを取り出すと、こんな説明書きがあります。
ずらっと英語で書いてありますが…試しに翻訳してみるとこうなります。
RecordingTheMastersは、オーディオカセットを介してアナログ録音のトーチを持ち続けることを誇りに思っています。伝説的なスタジオマスターオーディオテープフォーミュラ(SM900)に基づいて、Fox C60は、エンジニアとオーディオファンが最高の音楽を録音して再生できるようにします。
(Google翻訳にて翻訳)
アナログテープに対する強い意気込みが伝わってくるような文面です。何もかも0と1の信号で済ませてしまいそうな今の時代に、本格的なアナログ録音のためのテープを製造しているということは、相当強い想いがあると察します。
FOXに使われているテープは、SM900という同社の中で最高グレードに位置するテープです。元々はオープンリール用のテープで、これをカセットテープに転用して製造されています。
インデックスカードの書き込む部分には、大きくロゴが薄っすらと入っていて、同ブランドを推し出している感じです。ぱっと外観を見てどこのテープかが判るというのは、我々カセットユーザーにとっても大事なポイントですからね。
カセット本体に貼るインデックスシールにもロゴが入っています。このようなカッコイイシールはなかなか少ないですね。URのシールは無地、他にもあったとしても「A」「B」の表記くらいです。
純粋にカッコイイですね。
A面どB面でそれぞれ曲目を書けるように、大学ノートのようになっているのはごく普通ですが、一番上の行を見てください。
タイトルを書くようなスペースがあります。例えば、レコードからカセットテープに録音した時はアルバム名、自分の好みの曲をミックスして録音した時はプレイリスト名?を書いておくことができます。
あとは、録音した日付だったり、ノイズリダクションの有無、録音に使った機器など、この部分の使い方は様々です。
AとBと罫線だけがあるシンプルなデザインですが、ロゴが薄っすら入っているお陰で地味な雰囲気はなくなっています。
しかし驚くことに、URのインデックスカードは、いまだにノイズリダクションの有無を書く欄が現役です。一体いつまで続くのでしょうか…(´・ω・)?
販売中テープ同士で勝負。特性や音の違いは?
さて、外観から高品質だという雰囲気が伝わってくるFOXテープ。果たしてどんな音で録音することができるのか、検証してみることにしましょう。
今回使用するデッキは、ソニーのTC-K333ESJ。3ヘッド方式で、最上級モデルの一つ下であるミドルクラスのデッキです。録音イコライザー(以下EQ)調整も3段階で行えるため、殆どのテープで調整を合わせることが可能というくらい調整幅が広いです。
キャリブレーションモードで比較
まずはキャリブレーションモードを使った際に、メーターや調整にどのような差が出るかを見てみましょう。
高音域(HIGH)と低音域(LOW)のレベルがメーターに出てきます。はたして、どんな差が出るのでしょうか?
まずは比較対象として参戦したURから。
現行のURは、バイアスを少なめに設定して高音と低音のバランスを取るという特性を持っています。そのため、多くのデッキでHIGHがLOWよりも低くなります。
ただ、今回使用したデッキに関しては録音EQで高音域の補正もできてしまいます。録音EQをNORMALにセットした状態では、思ったほどHIGHが低くなりませんでした。
さて、いよいよFOXテープの番です。
URよりもHIGHの振れ方が大きいという結果に。
さすがにバブル期の高級ノーマルテープとまではいきませんが…というより、そもそもバブル期のテープは性能が良すぎてバケモノ級です。なので、令和のテープとバブル期のテープを比較するのは、ちょっとナンセンスです。
バブル期の余談はさておき、少なくとも、この時点でURとの磁気テープの差がハッキリ表れました。
周波数特性で比較
次の検証は、キャリブレーションを済ませた状態で-20dBのホワイトノイズを録音し、どんな周波数特性が出るかです。
結果は、ほとんど同じでした。
仮に無調整の状態では、FOXの方が高音域が強くなって右上がりのグラフになりますが、調整した状態ではどちらもフラットな特性を示しました。
テープによっては1~10kHzの音域が強く出る「かまぼこ型」の特性になったり、低音と高音が強調される「ドンシャリ」の特性になることもありますが、今回はそのような特性ではありませんでした。
グラフは同じっぽいけど、なんか音が違うぞ?
最後は耳で聴いて違いを確かめましょう。URとFOXの音質チェック対決です。
キャリブレーションでの調整はすんなりと出来たので、両者とも良好な録音できることが期待できることでしょう。
今回はジャンルが異なる2曲(アコースティック系とエレクトロ系)を用意してテストしました。生演奏の音をどれだけ忠実に表現できるか、ビートの重低音と電子音の硬い高音による音のパワーはどうなのか、検証しました。
非圧縮の音声データのため、容量がかなり大きくなっています。スマホなどのモバイル機器でお聴きの際は、Wi-Fiに接続することをお勧めします。
アコースティック系の曲
【UR】(WAV形式 96kHz-24bit 52.7MB)
【FOX】(WAV形式 96kHz-24bit 53.5MB)
エレクトロ系の曲
【UR】(WAV形式 96kHz-24bit 36.7MB)
【FOX】(WAV形式 96kHz-24bit 36.7MB)
どちらのテープもキャリブレーションで調整を行ったうえで録音しましたが、どうも音の輪郭に差が出ているように感じました。FOXの方が高音の鳴り方が綺麗だなというのが第一印象です。
かといってURとFOXで優劣が付くというわけでもなく、低~中音域を分厚く鳴らしてくれるのはURに分がありそうです。最大録音レベルの限界が高いのもURです。URは+4dBでも行けてしまうようで、音のパワーはURが一枚上手でした。
FOXの場合+3dBを超えてくると歪みが目立ってくる感じがします。高音が強く出る分、歪みも聞こえてきやすいためでしょうか。FOXに録音する時は、パワーを掛けずやや控えめで+2dB程度を狙うと、持ち味である高音の繊細さを引き立たせることができると思います。
ということで、どちらが良い音かというと、どちらも良い音という面白い結果になりました。
入力された音を忠実に表現するのはFOX、カセットテープらしい分厚い音を鳴らすのはURだと思います。
まとめ
今回、URとFOXを比較しながら色々と検証してみましたが、単純に優劣ではなく互いに違ったキャラクターである事がよくわかりました。
URは低~中音域重視、FOXは高音域重視、という風になっていて、1970年代のソニーに例えると、
UR=BHF
FOX=AHF
みたいな感じでしょうか。
実際に、昔のテープで特性が近そうなものを探してみましたが、1983年ごろのAHF後期型が近そうでした。バイアスの設定はほぼ同じ、録音感度だけが違うという結果でした。さすがに音のパワー感はAHFの方が良いですが…
曲によってはURの方が良い時もあれば、別の曲ではFOXの方が良い時もあると思います。
『好みの音質によってテープをチョイスする。』
これこそがカセットテープならではの楽しみだと思います。
最後に、今回ご紹介したFOXカセットテープ。海外の製品ということで、個人で輸入して購入すると送料がかさむため、入手はなかなか難しいです。
ところが嬉しいニュースが入ってきました。先月(2021年4月)に、記録メディアを中心に取り扱っている磁気研究所さんが、FOXテープの販売を開始するとの発表がありました。2021年5月現在、磁気研究所さんの通販サイトでも購入が可能です。
気になる方はぜひチェックしてみてください。
それでは、また(・ω・)ノ
使用機材
デッキ
・SONY TC-K333ESJ (1994年製)
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テープ
・RECORDING THE MASTERS FOX C60 (2018年発売)
・マクセルUR (2020年発売)
関連リンク
・株式会社磁気研究所ウェブサイト https://www.mag-labo.com/