西村音響店

SONYのカセットデッキ・仕様の違うTCM-200メカを並べて比較 

SONYのカセットデッキ・仕様の違うTCM-200メカを並べて比較 

 

こんにちは。管理人の西村です。普段はYouTube動画の投稿をメインに、時々当Webサイトのデッキ紹介ページの更新をするといった形で、テキストの記事は殆ど更新しなくなってしまいました。

実際のところYouTube動画だけ精一杯な部分もありますが…今週は難しい作業でやや忙しかったという事で久々のブログ記事です。

さて今回の記事で紹介するのはカセットデッキのメカのお話。同じような見た目をしていて機能や仕様が全く違う、というお話です。

こちらに3基のメカを並べました。詳しい方には「TCM-200」という型式で知られているソニー製のメカです。このように見た目は同じように見えますが、全然違います。

左はTC-WR965Sというダブルカセットデッキから外したメカです。オートリバース仕様です。

真ん中はTC-K700という3ヘッドの廉価機種から外したメカです。シングルキャプスタン仕様で、リバース機能はありあせん。

そして右はフラッグシップのTC-KA7ESのメカです。クローズドループデュアルキャプスタン・ダイレクトドライブ仕様です。

 

まずは基本的な差異の紹介

正面

TC-WR965Sのメカ

オートリバースなのでピンチローラーは左右にあります。また裏面の再生のために回転ヘッドを採用しているため、ヘッドの下の辺りに回転用のギヤが見えます。

TC-K700Sのメカ

リバース機能は無く、シングルキャプスタンで片道走行のみですので、ピンチローラーは右に1個のみ。黒色の大きな消去ヘッドが特徴的です。

TC-KA7ESのメカ

こちらもピンチローラーは2個ですが、クローズドループ方式の場合は2個のローラーを使ってテープを送りますので、再生時は両方上昇します。先ほどのような大きな消去ヘッドは使えないため、小型の物が使われます。(左側のローラーの右隣)

KA7ESだけの特別仕様である金メッキヘッドです。さらにピンチローラーも真鍮軸の物に交換して、より豪華な見た目になりました。

 

背面

背面を並べて見比べてみます。こちらは大きく違います。

大きく違うのはキャプスタンを回すモーターです。TC-WR965SとTC-K700Sは廉価機種にも幅広く使われているDCサーボモーター。TC-KA7ESは高級機種には半ば必須でもあるダイレクトドライブです。

細かな違いとして、TC-WR965SとTC-K700のモーターの配線を見ると本数が違います。WR965Sは高速ダビング用に倍速機能を備えているために、速度調整用の配線が2本余分に付いています。一方K700Sはその機能はありませんので電源の配線のみ。速度調整はモーターの背中にある、黒い小さな穴にドライバーを突っ込み、内蔵されている調整用トリマーを回します。

ダイレクトドライブのユニットは、枠組みが恐らくアルミダイキャストと思われます。ずっしりと重く、それによってメカ部分の制振・防振を図っています。

 

上部

上からの視点だとあまり違いはありません。TC-WR965Sだけコネクタのピン数が違うくらいです。オートリバース機能があるために制御用の配線が多くなっています。写っていませんが、TC-K700SとTC-KA7ESはコネクタが全く一緒です。実際にポン付けで付け替える事もできます。TC-KA7ESの筐体でTC-K700Sのメカを動かす、なんていう実験もした事があります。

 

左側面

左側面です。左のTC-WR965Sと、右のTC-KA7ESはスタビライザーの有無が違うために、カセットホルダのダンパーラックギヤの部分が違います。スタビライザー無しのタイプは、カセットホルダとラックギヤの部分が一体になっていて色も素材も揃っています。(ということはラックギヤ部分までセラミックコンポジット製…?)

ここまでは主に機能や装備の違いで、カタログの写真や解説でもわかる内容だと思います。

 

ここから更に細かな違い

ヘッドブロック・ハブ駆動軸

ここからは分解した状態でないと判らない違いです。

まず目を付けたのが、テープの残量を照らすランプを外した裏側。外すとハブを回転させる機構や、ヘッドが取り付いている土台(ヘッドブロック)が見えます。

TC-WR965Sのメカ
TC-K700Sのメカ
TC-KA7ESのメカ

最もごつい雰囲気があるのはTC-KA7ESでしょうか。ヘッドブロックの部分、KA7ESは頑丈に固定されているように見えます。録音再生ヘッドのちょうど上あたりに真鍮色のバネが見えますが、このバネが肝です。再生時にバネを上方向に引っ張ることで、再生中に微振動などの外的要因によってヘッドブロックが揺れたりズレたり事を防ぐ設計だと思います。

TC-WR965SとTC-KA7ESにはその機構がないため、すっきりとしています。

他の相違点としては、バックテンション機構の有無があります。KA7ESのようにクローズドループ方式のメカは、バックテンションを掛けるために左と右でハブ駆動軸が違います。再生時にはフェルトが茶色い部分に当たってブレーキを掛け、バックテンションを得ます。

あとは既に分かり切った事かと思いますが、ヘッドの違いです。録音再生ヘッドの材質は、K700Sはハードパーマロイ、WR965SとKA7ESはアモルファスです。ただ注意したいのは、アモルファスであってもWR965SとKA7ESは全く別物である点です。特にKA7ESは、ケースに金メッキが施され、巻線が6N材という特別仕様です。普通はPC-OCC巻線で、KA7ESはさらに純度の高い巻線を使っていると解説されています。

ちなみに今回紹介しているWR965Sのヘッドは、限界まで摩耗している状態です。ヘッド表面を見て、模様が付いている部分(ギャップ)の手前辺りが妙に凹んだように見えたら、偏摩耗がかなり進んでいると判断してよいと思います。また表面には段差ができますので、綿棒で表面を縦方向になぞり、引っ掛かりがあれば摩耗していると判断できます。

 

カム部分

さらに細かい部分です。続いてはメカを動かす中枢となっているカムです。頑張って該当箇所が写るように撮影してみましたが…大きな違いとしては、オートリバース機能付きのTC-WR965はヘッドを回転させる機構が必要なため、カムの動きが違います。

TC-WR965Sのメカ
TC-K700Sのメカ
TC-KA7ESのメカ

黒いギヤ(TC-K700Sだけ何故か白のギヤ)の表面に溝が掘ってあります。これに部品が沿って動くことで、メカがガチャガチャ動くわけです。

リバース機能がないK700SとKA7ESは奥の方には溝がありませんが、TC-WR965Sはその先にも溝が続いています。写真の位置を基準に、ギヤを時計回りに回せば表面(forward)再生、反時計回りに回せば裏面(reverse)再生です。

 

まとめ

今回は構造のベースが同じでも機能や仕様が異なるメカを用意できましたので、このように並べて紹介してみました。

ところがこのTCM-200系メカのうんちくは、今回でも未だ半分くらい?しか語り切れていないです。3ヘッドの機種で言えば、ESG、ESL、ESA、ESJ、KA、各世代で違いがあるという…さらには最上位機種と下位機種でも差異があり…という事でTCM-200の話だけで下手したら1時間2時間と喋ることが出来るかもしれません。

ただ、やはりこの欠点は共通しています。

デッキ好きの方ならご存知かと思いますが、カムを動かす細くて小さいゴムベルト。モードベルトと呼べば通じると思います。これが切れたり伸びたりするとメカは動きません。

少し振り返りますが、KA7ESのタイプのメカでヘッドブロックを固定するバネがあると紹介しました。実はこのバネはなかなか硬く、引っ張る際にベルトに負荷が掛かりやすいです。その為に、モードベルトが少し緩むだけで再生出来なくなるという事に繋がるのだと思います。

WR965SとK700Sはそれが無いので負荷が少なくなる分、故障率は下がるはずです。

 

構造のベースを共通化してコストを抑える設計は他のメーカーでも見られます。特に平成に入ってからその傾向が顕著になっていると思います。

ベースは共通だけど、どの部分を変えたら違う仕様のメカに出来るか?といった様にじっくり観察して分析する事が、メカ好きな管理人にとってはハマってしまうポイントです。修理するだけならあまり必要の無い事かもしれませんが、後々この時に得た知識が活きたりする時もあるんです…

大変マニアックなお話ですが、何かの参考になれば幸いです。

それではまた(・ω・)ノ

 

今回ご紹介した機材は当Webサイト会員様の機材です
TC-WR965S:イシガキ様
TC-K700S:「うにぐりくん」さん
TC-KA7ES:「おなかのでたじじい」さん

 

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