西村音響店

SONY TC-K777ES の修理(フルオーバーホール)

 

皆様こんにちは、西村音響店の西村です。

 

今回、ご紹介するのは、SONYのフラッグシップカセットデッキ、1983年製のTC-K777ESです。大阪府の方より、「再生ができない、ディスプレイが点かない」の症状でご依頼頂きました。

私自身も先代のTC-K777を所有していますが、777ESからはレーザーアモルファスヘッドを搭載しています。ヘッドは変わりましたが、堅牢なボディは健在です。777と777ESでは、異なる特徴を持っていますので、好みが分かれると思います。

 

 

 

電源をONにすると、デッキメカの電球は光りますが、FLディスプレイは点灯していません。メカは反応があるものの、固着して動きませんが、外部入力の音声は正常に出力できています。

 

過去に修理歴があるとのことで、コンビネーション型のヘッドに交換されています。ヘッドのマウントが共通で、S&Fヘッドも移植が出来ます。

 

 

中身も先代の777とは大きく異なっています。右側のアンプ回路は、銅シャーシに覆われています。再生/録音アンプの下に、ドルビー回路があります。一般的にはトランジスタで、ドルビーのモード切替を行いますが、777ESではリレーで切替を行い、更にドルビーを使用しない時は回路を開放する仕様となっています。

 

まずは、ディスプレイが点灯しない問題から解決していきます。ディスプレイ全部が点かないということであれば、電源系統に問題がある可能性が高いということで、電源部分を確認してみます。

 

底面を露出させて、電圧を測定します。電源は画像右側の基板です。

 

 

ディスプレイの電源ラインを、逆に辿っていくと、ここにたどり着きました。ここが、トランスからの電源です。全波整流された電源が42.7Vです。かなり高い電圧を使用しているようです。全波整流の次に、抵抗を通ります。

 

しかし、抵抗をくぐった先の電圧を測ってみると、9.5Vでした。抵抗を通る前は42.7Vでしたので、流石にこんなにも電圧降下するのはおかしいです。

 

異常のある抵抗の抵抗値を測ってみると、約800Ωでした。カラーコードの表記では47Ωですが、熱で劣化してしまったと思われます。

 

 

電源ラインで負荷が大きく掛かりますので、余裕をもって定格3Wの抵抗に交換しました。同じ47Ωでも、定格には注意が必要です。一般的な0.25Wの抵抗を使った場合、発熱の許容量を超えてしまい、発煙や発火の原因になります。信号程度であれば、電流は僅かな事が多いので、定格はそれほど気にしなくても良いです。しかし大きな電力を扱う電源部分は、オームの法則、ジュールの法則を使えるようになる必要があります。

 

無事にディスプレイが点灯しました。電源部分で異常を発見する時に、先ほどは回路を辿りながら電圧測定をしていきましたが、大きな電力を扱うことを利用して、抵抗やトランジスタの発熱で異常を発見できることもあります。もし、電源をONにしてから暫く立っても冷たい場合は、怪しいかもしれません。

 

ディスプレイの問題が解決したところで、次はメカのオーバーホールです。メカにつながる配線を抜きます。

 

スリーセブンのメカの外し方は、少しユニークです。メカが枠組みに固定されていますので、枠組みごとまとめて外してしまいます。

 

いよいよ、ここからメカを分解します。

 

カセットホルダも、軸部分が固着してしまっており、パーツクリーナーを吹きかけて溶かしながら、ゆっくり開きます。無理に開けようとすると、他の部分を破損してしまう危険がありますので、気長にゆっくり行うのが鉄則です。

 

 

カセットホルダは、左右ネジで固定されており、まとめて外すことが出来ます。スリーセブンのメカは、金属の部品が多用されていて、如何にも高級機に相応しい構造となっています。

 

カセットを照らす電球が邪魔になるので、先に取り外しておきます。配線はメカの背面にある、小さな基板に半田付けされています。赤い線が電球です。

 

続いてキャプスタンの取り外しです。スリーセブンは、初代からダイレクトドライブを採用しており、2代目の777ESも引き続き採用されています。ちなみに下位の555シリーズでは、3代目のTC-K555ESⅡよりダイレクトドライブが採用されました。

 

キャプスタンを外すと、回転検知用のコイルが現れます。コイルでの検知方法は、新型メカニズムになる前のESRシリーズまで変わりません。

 

こちらは、ヘッドの上昇、ピンチローラーの状況を行う、ソレノイドです。ここにも下位の555とは異なり、ヘッドとピンチローラーそれぞれに、ソレノイドを使っています。

このようにすることで、特に一時停止時においては、ヘッドを上昇させたまま走行を止めることが可能となり、テープの編集がより高精度に行えます。下位モデルは、ヘッドが僅かに下がるため、再開する位置がずれる事もあります。

 

続いて取り外したのは、リール用のBSLモーターです。ここがスリーセブン専用メカの大きな特徴の一つである、ブラシ付きのモーターが一切採用されていない点です。

通常のブラシ付きのモーターは、ブラシと整流子が接触しており、回転中は常に電流の逆転を繰り返しています。この電流が逆転する時に、モーター特有のスパークノイズを発します。モーターに、コイルやコンデンサを取り付けることで、ノイズ対策を行っていることが殆どです。

利点の多いBSLモーターですが、複雑になりがちな駆動用の回路が必要という点や、コストが高いという欠点もあります。しかし、コストパフォーマンスを考慮せず、最高峰のカセットデッキを目指したSONYの意向が感じられる部分でもあります。

 

残りレバー類の部品を外して、メカ背面は何もない状態になりました。地板を眺めても、やはりプラスチックが一切使われていないので、とても頑丈な作りになっています。

 

最後にヘッドを外します。ヘッドの固定は、左右両側に、金属製のローラーを噛ませて、上から板で押さえている構造です。六角のボルトで止まっていますので、プライヤで掴んで緩めます。

 

左側の固定部分を外した様子です。右側も同様です。メカの固着は、ピンチローラーの軸部分が多いと聞かれますが、同部分に限らず、グリスが塗られている部分は経年で固着していきますので、放置すると再び固着が進行する恐れがあります。

 

777ESのメカを完全に分解しましたと思いきや、これで完了ではありません。まだ、カセットホルダとリール部分が、まだ分解出来ていません。この段階では、5つのブロックに分けましたが、うち2つは更に分かれます。

 

先にヘッド部分にあった金属ローラなどの部品を洗浄しておきます。まだここの部分は頑固に固着はしてなかったので、パーツクリーナーに浸せば徐々に溶けていきます。

 

ピンチローラーも一度分解し、特に軸部分を洗ってシリコーンオイルを塗布し、回転がスムーズになるようにしておきます。個人的には、ローラーがこのように外せた方が、整備性やローラーの交換もしやすいと思います。AKAI、A&Dのデッキも、同じようにローラーだけを外すことできます。

 

ヘッドの裏側ですが、ここにもしっかりグリスが付着しています。こちらの方が少し固まっていました。パーツクリーナーに漬け置きすることができないため、液をグリスに垂らして少しずつ溶かしていくしかありません。強力の方が良いので、電子部品洗浄剤を使います。

 

カセットホルダの分解を進めていきます。他の部分よりも固着が激しいので、入念に洗浄を行います。

 

 

Xの字の形をした部品が使われているカセットホルダは、どうしても複雑になってしまいます。過去に整備を行ったTRIO KX-70というデッキも、同じような構造をしていました。このような構造のカセットホルダは、開き方に少し高級感が出るという点では、メリットかもしれません。

 

カセットホルダの分解は、向かって右側から順番に外してくと、比較的作業しやすいと思います。組立時は逆の左から順番に組み立てていくことになります。

 

続きまして、リール部分の分解です。このように、大きなまとまりでユニットごと取り外せると、整備性も良くなると思う反面、まとまりで外さなくてはならないので、実際は部品点数が多かったりします。

 

さらにまた二つに分離します。前側にリール台とブレーキ、後側にアイドラー、BSLモーターがあります。

 

スリーセブンのメカには、早巻用と再生用の2つのアイドラーがあります。再生用のアイドラーは、BSLモーターからベルトで伝達されて回ります。

 

最終的に、このように分解することができます。部品点数の多さは一目瞭然です。こちらも金属製の部品が多く使われており、特にイモネジによる固定が多用されていることもポイントです。

分解した部品は脱脂洗浄を行い、古いグリスを完全に落とします。

 

劣化したアイドラーのゴムリングを交換します。特に再生用のアイドラーは、完全に硬化してしまっており、ネジザウルスで掴んで引きちぎりました。

 

リールの回転検知は、ホール素子で磁界の変化を利用して検知する方式で、ここも下位モデルと異なる部分です。ちなみに下位モデルは、光の照度を利用しています。

 

リール台を取り付けます。軸部分にシリコンオイルを塗っておき、回転鳴きを防止します。リールを止めるためのブレーキも、新しいウレタンゴム製のものを取り付けました。

 

リール部分の組み立てが完了しました。ソレノイドを手で動かしてみて、ブレーキの作動/解除が、滑らかに出来るか確認します。解除の状態からブレーキがすぐ作動すればOKです。

 

カセットホルダも脱脂洗浄を終え、組立てます。各所の軸部分には、グリスを塗り忘れないようにします。

 

次はヘッドとピンチローラーの取り付けです。こちらも脱脂洗浄で綺麗な状態になっています。摺動部分には、必ずグリスを塗ります。塗った後は、手で繰り返し動かして、グリスを浸透させていきます。

 

 

 

続いてはメカの背面です。基本的に、分解の時と逆の手順で組み立てていきます。くれぐれもグリスの塗り忘れには注意です。オイルでも潤滑は出来ますが、潤滑性能がグリスよりも長持ちしないので、注油の頻度も多くなってしまいます。ましては、入り組んだ箇所の注油は難しいので、特に理由がなければ原則グリスでの潤滑をします。

固着している時に、オイル系のスプレーを吹きかけたくなってしまいますが、グリスを流してしまうので、一時的には潤滑出来るものの、徐々に滑りが悪くなってしまいます。

 

徐々に元通りに組みあがってきました。組立て時に注意する点でもう一つ、ソレノイドが使われているメカは、取り付け位置がずれると、例えばピンチローラーが上がりきらずにキャプスタンと密着しなかったりと、動作に支障が出ることがあります。取り外し前に、取り付け位置をマーキングしておくと安全です。

 

残りキャプスタンと、D.D.基板を取り付けて、メカ背面は完了です。ベルトも新品に交換しました。キャプスタンベルトは内径70mm、BSLモーターにある細いベルトは、内径35mmが適合します。

 

最後に、電球とカセットホルダを取り付けて完成です。やはり部品数が多いため、他のカセットデッキに比べ、作業時間も1.5倍くらい掛かります。本格的に777ESをオーバーホールするのは、今回が初でしたので、予想以上に時間が掛かってしまったと思っていますが、今後は更に効率のよい作業が可能となるでしょう。

 

本体に接続して、動作確認を行います。再生で音が出るか確認するのはもちろんですが、同じくらい重要なのが早送りと巻戻しです。小刻みに動作/停止を繰り返して、リールがしっかり止まるかどうかの確認も欠かせません。また、777ESはBSLモーターを使用しているということで、プーリーの取付位置の調整が必要です。構造はブラシレスモーターですから、駆動コイルとマグネットの距離が不適切ですと、回転トルクが不足したり、コイルと接触して異音を発したりします。最も回転速度が出る位置を探し、六角レンチでプーリーを固定します。

 

再生も正常に出来るようになりました。スリーセブンのメカは、色々と面白い部分がありまして、先ほどからリールの回転にBSLモーターを使っているとお話ししていますが、実は巻取り速度の調整が非常に簡単にできます。

通常、ブラシ付きの直流モーターは、電圧に比例して回転速度・回転トルクが上がります。大体は、駆動電圧も固定されていて調整は難しいのですが、BSLモーターはブラシレスタイプなので、回転速度は電圧ではなく、スイッチングの速度に比例します。そのスイッチング速度を調整するボリュームが基板についており、回すことで自由に調整することができます。もちろん、通常に使用する分には触れる必要もありませんが、巻取り速度まで調整できるデッキは少ないと思います。

 

続いては、電子部品の交換です。特にアンプ部分には、高級品で高耐圧のコンデンサが使用されており、ここにもコストを掛けていることが窺えます。流石に低グレード品の物に交換するのは抵抗がありますので、思い切って高級品を使用することにしました。

 

配線をどんどん外していき、空っぽの状態を目指します。基板は大きく分けて9枚の構成になっています。モーター回転制御、システム制御、録音/再生アンプ、ドルビーNRのエンコード/デコード、キャリブレーション、イコライザー回路、ヘッドホンアンプ、FLディスプレイ、操作ボタンの9枚です。

 

基板の取り外しに成功しました。トランスからの配線は半田付けですので、マーキングが必要です。他はコネクタ接続ですので、必要に応じてコネクタに印をつける程度で大丈夫です。

 

電子部品の交換が終わりました。アンプ部分に見える水色のコンデンサは、電解コンデンサーの中でも最高級グレードである、PARC Audioのコンデンサーを採用しました。耐圧は100Vの両極のみで、サイズもかなり大きいです。

 

カセットホルダのカバーは、ネジを外すと、アクリル板が外れます。隙間から入った塵を取り除きます。

 

エージングを行いながら、電気的な部分に異常がないことを確認し、外装部品を取り付けて完成です。今回、ご紹介したTC-K777ESの他に、TC-K777、TC-K777ESⅡも、回路に差があるものの、デッキメカの部分は3機とも同じ構造ですので、どれもオーバーホールが可能です。

フルオーバーホールで、PARC Audioコンデンサーを使用する場合は、通常工賃の他に、別途部品代金が必要となりますが、オーバーホールを機に、更なるグレードアップはいかがでしょうか。

PARC Audio コンデンサーについてはこちら(PARC Audio ホームページ)

 

3世代のスリーセブン、皆さんはどれがお好きでしょうか。今では中古で安く手に入れることが可能だからこそ、3台とも所有するなんてことも出来てしまいます。それぞれ個性があると思いますので、一概に優劣はつけれません。

SONYの名機であるスリーセブン。動かなくてお困りでしたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

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