カセットテープの素朴な疑問。
『A面とB面があるのはなんで?』
カセットテープ世代の方からすれば「そんなの当たり前じゃん。」となるかもしれませんが、使ったことがない世代の人にとっては不思議に感じる部分だと思います。
だって、カセットテープを裏返すと違う曲が流れるんですから。
親の英才教育で幼いころからカセットテープを弄っていた僕も、当時は不思議に思っていました。
まさか、幼稚園や小学校にカセットテープの本なんて、あるわけないですからね(笑)ずっと不思議に思っていました。そして大学の図書館で専門書と出会い、ようやく謎が解明されたという経緯があります。
というわけで、今回はカセットテープのA面とB面(いわゆる表裏)について、少し深堀してみましょう。
幅3.81mmのテープをどう使う?
まずはカセットテープの規格のお話です。ビデオテープよりも遥かに細いカセットテープ。幅は3.81mmです。
この3.81mmのテープをA面とB面で半分ずつに分けます。まずこれがカセットテープの表裏の秘密です。
具体的に画像で示すとこのようになります。手前側がA面です。青線がA面の音、赤線がB面を音を示します。
ご覧のように、テープの幅を半分ずつ使ってA面とB面の音を記録しています。
そして再生するときは、どちらか片方の音を再生ヘッドが読み取ることにより、オモテとウラで違う音が聞こえてくるという仕組みです。
テープの幅が3.81mmなので、半分は1.9mmです。しかし実際は1.5mmずつ使い、A面の音とB面の音との間には0.8mmの空白が入れられています。
ぴったり半分使ってしまうと、色々な弊害が発生する可能性があります。例えば再生の時であれば、A面を再生しているのに逆再生されたB面の音が混入するという現象です。(専門用語でクロストークといいます)
また、録音の時には音を消去する工程がありますが、A面の音を消すはずなのにB面の音まで消えてしまう可能性もあります。
A面とB面1.5mmずつ使い、境目に0.8mmの仕切りを入れているというイメージです。
しかしカセットテープに限らず、オーディオって基本的にステレオで聴きますよね。A面だけでも、左側の音と右側の音を記録する必要があります。
どうすればよいでしょう?
さらに半分に分けます。先ほど紹介した、A面の録音スペースである幅1.5mmをさらに半分に分けます。
1.5mmの半分は0.75mmです。ただし、例によって仕切りとなる空白部分を入れる必要があるので、実際は左と右の音で0.6mmずつ使います。空白は0.3mm。
だいぶ窮屈になりますね。これがカセットテープをステレオで録音再生できる秘密です。
カセットテープの幅や、音を記録するスペース(専門用語でトラックといいます)の幅は規格で決められています。が、難しいことは考えず、テープの幅を4分割して音が記録されていると思っていただければOKです。
■余談■
もっと窮屈に記録する規格としてデジタルコンパクトカセットがありました。カセットテープと同じ幅を8分割して使い、デジタル信号で録音するというものでした。
オーディオではステレオが基本ですが、モノラルでカセットテープを使う場面もあります。
主に会議など、人の声を記録するだけであれば、言葉さえ解れば十分なので無理にステレオにする必要はありません。むしろモノラルの方が、電気回路の設計を簡単にできるので、余計な製造コストが掛からず済みます。
こういったシーンの場合、高音質なレコーダーを1台買うより、とりあえず録音できるレコーダーを何台も買った方が良いでしょうね。
僕はカセットテープ世代ではないので当時の現場がどうだったかはわかりませんが、あちこちで議事録を作るために活躍していたのではないかと思います。
ビデオテープはなぜ裏面がない?
カセットテープの表裏の仕組みはこれで以上ですが、余談でビデオテープのお話をします。
ビデオテープといったら、当時はお馴染みだったVHS。そしてビデオカメラでよく使っていた8mmビデオ。ちょっと拘る人はベータマックス。
さて、なぜビデオテープには裏面が無いのでしょうか。(まぁ形からして裏返して使えるわけないですが..)
実は記録の仕方がカセットテープと全く違います。イラストで表すとこのようになっています。
カセットテープは横一直線に記録されているのに対し、ビデオテープは斜めに記録されています。ご覧のように、いっぺんにテープの幅を使ってしまうので、ビデオテープには表裏という概念がありません。
理由は、記録する信号の周波数が桁違いに違うからです。
オーディオでは人間が聴こえる音と同じ、20~20000Hzが主に使われます。(ハイレゾといった空気感まで表現するようなものもありますが)
対して映像を記録するには、何メガHzという信号を使います。空中を飛んでいる電波をそのままテープに記録するようなイメージです。
そのような事もあり、ビデオデッキで使われるヘッドもカセットデッキとは全く違います。
円形をしている部品が映像を読み取るヘッドです。これが超高速で回転します。専門用語でヘリカルスキャン方式と呼ばれますが、画像で見てもビデオデッキの方が物々しい雰囲気になっていますね。
ビデオテープに表裏がないのは、記録方式の違いが理由の一つとして挙げられます。
ちなみに映像を記録するメディアで表裏があるものは存在します。それがレーザーディスクです。
まとめ
カセットテープに表裏があるのは、テープの幅をA面とB面で記録するスペースを分けているためです。
そして、表裏があるカセットテープならではの表示がこれではないでしょうか。
「片面30分/往復60分」
使ったことがある方であれば絶対に一度は経験したことがあるであろう、「5分の曲だけどA面の残りがギリギリ足りなくて途切れた!」というシーン、ありませんでしたか?
今でしたらデータ容量から計算して「残り何分」って出てきますが、カセットテープはちょっと違います。
いくら60分テープだからと言って、連続で60分録音できるわけではありません。A面とB面の切替えがあるので30分で一旦途切れます。
例えば、全部で59分のアルバムをレンタル屋で借りてきました。すべての曲をカセットテープに録音しようとするとき、
「60分テープ」or「70分テープ」
どちらを選びますか?
60分テープ…ではなく、70分を選びます。A面とB面の切替え部分を考えて少し余裕を持たせないと、上手くテープに録音できません。使ったことがある人なら、きっと頭をひねった作業だったと思います。
「いやいや、60分でもちょっと余分にテープが巻いてあるから60分で十分。」という方は、かなりの強者です(笑)
カセットテープの表裏と録音時間に関する思い出、使ったことがある方ならきっと1つや2つはあるのではないでしょうか。
ではまた(・ω・)ノ