皆様こんにちは、西村音響店の西村です。
この度も、音響店のブログをご覧くださり、ありがとうございます。
カセットデッキの基礎を学ぶ「カセットデッキのいろは」シリーズ、第14回でございます。
第1回~第13回まで、カセットデッキ、カセットテープの基本的な扱い方についてご紹介してまいりました。第14回からは、少しずつレベルを上げて、これを知ると、カセットテープの世界により深く踏み込めるようなお話をしたいと思います。
今回は、ハイポジとクロームって何が違う?といったテーマです。
復習になりますが、カセットテープには、主に3種類のテープがありましたね。
・ノーマル(TypeⅠ)
・ハイポジ(TypeⅡ)
・メタル(TypeⅣ)
この3種類です。
本当はもう1種類、フェリクロームという物がありました。これは、メタルが登場する前の最高級グレードでした。「なぜTypeⅢが抜けている?」と疑問に思っていた方もいらっしゃるかもしれませんが、TypeⅢの正体が、このフェリクロームです。
フェリクロームについては、また別の回でお話します。
さて、TypeⅡのハイポジですが、
「ハイポジ」と呼ぶ人もいれば、「クローム」と呼ぶ人もいます。
他のテープはそのまま、「ノーマル」、「メタル」と呼ぶことが多いと思います。
でもなぜか、TypeⅡだけは、ハイポジとクローム、2通りの呼び方があります。
今回はその違いについて、少し深堀りしてみます。
ここで質問です。
ハイポジとクローム、どちらが時期的に古いと思いますか?
正解は、クロームです。
時代が進むにつれ、ハイポジと呼ばれるようになりました。
なぜ、クロームとも呼ばれる理由は、歴史を辿ると答えがあります。
TypeⅡテープが登場した当時、音を記録するための磁性体は、二酸化クロムという物質が使われていました。この二酸化クロムの、クロムが呼び方の由来です。
※クローム、クロム、どちらでもOKです。化学的にはクロムの表記を使います。
ところで、カセットテープや、カセットデッキに、こんな表示を見たことはありませんか?
これは二酸化クロムの化学式です。初めて見たときは、これどういう意味?と疑問に思った事と思います。私がこれを初めて見たのが小学生の時で、高校生になってようやく謎が解けました。
この化学式の表記が残っているのも、元々TypeⅡテープの磁性体が二酸化クロムだったためです。
さて、後にハイポジと呼ばれるようになったのは、一体どのような理由なのでしょうか。
元々、二酸化クロムが使われていたTypeⅡテープ、実は登場から数年して違う磁性体に変わりました。
それが、コバルトを添加した酸化鉄です。
クロムが使われなくなったので、替わる呼び方として、ハイポジションという名前が生まれました。
ノーマル(Normal)よりも上のグレードであるから、ハイ(High)。
クロムが使われなくなった理由は、詳しくは分かりませんが、クロムが地球環境に影響が出るという話や、二酸化クロムが毒性が強いという話が関わっているのではないかと思います。
ちなみに酸化鉄は、ノーマルテープの材料です。それに、コバルトを混ぜることによって、二酸化クロムの特徴に近づけています。
でも実は、ノーマルテープでもコバルトを混ぜているテープがあります。「酸化鉄とコバルトを混ぜたら、ハイポジになってしまうのでは?」と疑問に思うかもしれませんが、恐らくコバルトの配合率によって調整されていると思います。
コバルトを多くすればハイポジの特徴になり、逆にコバルトを少なくすればノーマルテープの特徴に近くなります。
高級なノーマルテープは、バイアス電流を多め(深め)にすることがあると思います。これもコバルトの影響で、必要なバイアスの量が増えているためです。
復習になりますが、ハイポジはノーマルよりも、バイアスが多く必要でした。つまり、コバルトを混ぜてハイポジの特徴を持たせようとすると、必要なバイアスの量も増えるといった形です。
ノーマルが得意とする中音域、ハイポジが得意とする高音域、両者いいとこどりしたのが、高性能なノーマルテープと言えると思います。
いかがでしたでしょうか。
今回は、カセットテープに使われる磁性体の材料が中心のお話でした。少し化学的な内容が多くあって難しかったかもしれません。
二酸化クロムを使ったテープは、’70年代に生産されたかなり古い物になりますので、入手も難しくなっています。よく知られているのは、ソニーのCROMIカセット、独BASF社のcrome-dioxideです。
特にソニーは、ビデオデッキのベータマックスを発売した当初、ビデオテープに二酸化クロムを使っていたそうです。のちに、コバルト+酸化鉄になりました。
少し記憶が薄いですが、ビデオテープを修理するアルバイトをやっていたころ、二酸化クロムを使ったビデオテープがありました。
コバルト+酸化鉄は真っ黒ですが、二酸化クロムは少し灰色だった記憶があります。
同じハイポジでも、年々性能が向上していきました。1970年代のハイポジと、絶頂期である1990年代のハイポジでは、録音の性能が全然違います。
より綺麗な音で録音したいなら、’90年代のハイポジがお勧めですが、やっぱりノスタルジックなのは’70年代のテープですね。使うのはともかく、飾っておくだけでも良さそうな感じです。
左上:SONY JHF 右上:SONY UX-S 左下:SONY UCX-S 右下:TDK SA
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。