今回の主役となるデッキは、1982年のSONY TC-K555ES。再生スピードが不安定になってしまったときのお話です。
再生スピードが不安定というのは、音揺れ(ワウフラッター)程度ではありません。急にテンポが遅くなって音程が低くなって、デッキが勝手にカバー曲にしちゃっているような感じです。
さて、何が原因として考えられるかですが、ぱっと思い当たるのがゴムベルトの劣化。しかし残念ながら、記事タイトルにもあるように、今回はベルトが原因ではありません。
一体何が原因でスピードが不安定になってしまったのでしょうか?
BSLモーター=ブラシレスモーター
SONYのカセットデッキで、1980年前半ごろのモデルを眺めていると、やたらと「BSLグリーンモーター」という言葉が出てきます。
BSLグリーンモーターの正体ですが、簡単に言えば小型のブラシレスDCモーターです。
もう少し分かりやすく例えるならば…
ダイレクトドライブ方式はご存知でしょうか?キャプスタンをベルトを使わずに回す方式です。
このようにキャプスタン側には磁石が付いていて、基板にあるコイルから電磁石を発生させて回転させるという仕組みです。この仕組みをコンパクトにして、普通のモーターっぽくしたのがBSLグリーンモーターです。
普通のモーターのメリットであるコンパクトさと、ダイレクトドライブのメリットである回転精度の良さを、いいとこどりをしたモーターとも言えると思います。
なにやらカラカラ音がする…
さて、再生スピードが突然遅くなったり、不安定な状態になった今回のTC-K555ES。
再生スピードが不安定になると言ったら、どんな原因が考えられますか?
記事のタイトルにもありますが、ベルトが原因ではありません。
もちろん、僕も最初は定番の故障とかかってベルトを変えてみましたが、残念ながら直らず。となれば、原因はほかにあるということになります。
そして、BSLモーターに電源を入れて回してみると、なにやら「カラカラ」と異音を発しています。
モーターのどこかが擦りあってるような音にも聞こえますが、音の鳴り方が不規則です。
もし物理的に部品が擦りあったり当たっている状態だと、「カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、…」という感じで、周期的に音を発する点がポイントになります。
ということは、物理的な原因でもない…
まさか、電気系…?
ということで、モーターを回転させるための回路をチェックすることになります。
あちっ!
触り続けてたら低音やけどするくらい、何故かオペアンプが発熱していました。
オペアンプって、普通は微小な信号を増幅すると、モーターを回転を回すほどの電力は扱えません。モーターを回すのは比較的サイズが大きなトランジスタの役割です。
交換した結果は…
静かに回っています。
原因はオペアンプで間違いありません。
部品交換の可否は死活問題
オペアンプは、カセットデッキの中でも壊れやすい半導体部品の1つです。
今回の故障原因を探るうえでポイントとなったのは「熱」です。オペアンプは普通、触れなくなるほど発熱することはありません。ですので、もし異常に熱くなっていたら故障を疑ってみるとよいと思います。
逆のパターンもあります。普段は半導体が暖かいのに何故かひんやりしている…というパターンも要注意です。
また、アンプの部分に使われているオペアンプは、壊れると雑音が増したり、音が全く出なくなってしまうといった症状がでます。
幸いにも今回の場合は、現在も電子部品屋で手に入るオペアンプの交換で済みました。
これが専用設計のICだったり、廃番品の半導体だったりが壊れてしまうと、もうなす術がありません。新品の入手ができないので自力での修理は難しく、ドナー(部品どり機)に頼ることになってしまいますので、なかなか大変です。
そしてこのドナーを確保しておくのも、希少な機種や高級機種では難しくなります。
保守部品の確保はカセットデッキの死活問題です。