今回ご紹介するのは、ダブルカセットデッキ。
ダブルデッキというと、安いデッキを思い浮かべるかもしれません。発売当時の定価でいうと、だいたい5万円以下のものが多いです。中には2万台という破格のデッキもあります。
しかし、今回紹介するデッキは只者ではありません。重量だけでも10kgは優に超えます。重さだけで言うと、10kgを超えたらもう高級デッキの仲間入りです。
それにしても10kgを超えるダブルデッキって…これは何かありそうです。
型番はTCC-5000W。
早速見ていきましょう。
得体の知れないメーカー
はじめにメーカーは何処かですが、TOWAというメーカーです。
…どこ?
全く効いたことのない名前です。別にSONYやビクターのような家電メーカーというわけでもなく、よく分かりません。
一応、デッキの後ろにはしっかり製造元が書いてあります。電源コードに印字されている西暦は1999年とあるので、比較的新しめのデッキになるかと思います。
外観ですが、まず目についたのはどこかで見たことがあるボタン配置。この操作ボタンのデザインを見て、ピンと来るのではないでしょうか。
そうです。TASCAMです。
どこからどうみても、このボタンはTASCAMです。というわけで、メカの部分をチェックしていきましょう。まずはヘッドの部分から。
えっ!?
なんか、3ヘッドのオートリバースになってるし!
しかも両方。
オートリバースデッキと言ったら、普通は録音と再生が1つのヘッドで兼用される2ヘッド方式です。しかしこいつは、3ヘッド方式のオートリバースを、左右に積んでしまうというとんでもないデッキです。もちろん3ヘッド方式なので、録音同時モニターができます。
超変態デッキ。
まさかこんなデッキがこの世に存在しているとは、思いもよりませんでした。
3ヘッド方式のオートリバースということで、搭載されているメカニズムはTASCAMの112R MkⅡのものです。これを2基搭載。
続いてキャビネットを開けてデッキの中を見てみましょう。
まぁ恐ろしいことになっています。何と言っても配線の数です。後ほど紹介しますが、カセットデッキ2台分の機能を1台に詰め込んでいるお陰で、このように非常に実が詰まっているような光景になっています。
メーカーはTOWAですが、部品はどれもTASCAM。TASCAMといったらTEACです。もしかしたら製造もTEACがやっているのかもしれません。
ということは、至る所にTEACのロゴがあるはずです。探してみましょう。
まずここに1つ。
またここに1つ。
という事で、TEACの部品がふんだんに使われています。ただ、3ヘッド方式のオートリバースでダブルデッキという構成は、TOWAオリジナルだと思います。
TASCAMと同じメカで整備性は◎
112R MkⅡのメカニズムを搭載しているということで、修理やメンテナンスの方法もTASCAMのデッキと同じです。
分解して構造を見ていきましょう。
このようにTASCAMのデッキに搭載されているメカが2基あります。けっこう豪華?な構成になっているかもしれません。
大抵のダブルデッキでは、軽くて安くてちゃちいメカニズムが使われることが多いです。しっかりしたメカニズムをダブルデッキに積む機種は少ないと思います。
フライホイールも立派なものが付いています。ここも112RmkⅡと同じです。
TASCAMのメカニズムを流用しているということは、壊れる箇所も同じです。112RmkⅡをはじめ、同じ頃のTASCAMのデッキは、矢印で示したギヤが割れて動かなくなる故障が鉄板です。
今回のデッキも、このギヤが割れて動かなくなっていました。
メカニズムの前面です。録音と再生のコンビネーションヘッドが見えます。リバース時はコンビネーションヘッドが回転し、消去ヘッドはフォワード用とリバース用で別々に設置されている形です。
完全に分解するとこのようになります。
分解は比較的しやすい方です。やはり業務用なのでメンテナンスしやすいような設計になっているのでしょうか。一般ユース向けのデッキでもTEACは整備性が良くて、(メーカーを差別するわけではありませんが)作業が楽です。
変態なのは3ヘッドダブルデッキだけじゃない!
さて、3ヘッドオートリバースデッキを2基積んでしまうだけでも十分変態ですが、まだまだ変態要素があります。
同時に2本再生できる。
普通のダブルデッキの場合、デッキが2つ付いていても片方だけしか再生できません。例えば左側のデッキを再生していて、右側のデッキを再生しようとしても、片方は停止してしまいます。
しかしこの超変態デッキなら、同時に2本再生できて、音声も別々に出力できます。もちろん録音もOK。同時に2つの異なる音声を別々のテープに録音することも可能です。こういった事ができるデッキは、正確にはツインデッキに分類されます。
実はこのデッキ以外にも、ヤマハのKX-T900とKX-T950がツインデッキです。外観は普通のダブルデッキですが、1つの身体に2台分のカセットデッキを詰め込んでいるという変わり者です。
もちろん、ダブルデッキと同じようにダビングもできますが、別々の音を録れるという点が最大の特徴です。ラジオで例えるならば2局同時に録音できたりと、ビデオでいう裏番組を録るようなイメージですね。
ノイズリダクションは無し!
ここが最も謎なポイントです。
普通のカセットデッキならドルビーB・ドルビーCが付いているはずなのに、このデッキはありません。
…なぜ??
一番考えられるのは、このデッキがそもそも音楽を録音するためのデッキではないことだと思います。
人の声を録音するだけなら別に音質はそこまで必要ありません。むしろ、ちゃんと録れているかの方が大事なので、録音しながら即時に確認できるように3ヘッド方式になっているのではないでしょうか。
なにしろ、我々はカセットデッキにドルビーは付いているものだという潜在意識があるので、ドルビー無しのデッキとなると何処か不安になります。
皆さんはいかがでしょうか。TEACからとうとうドルビー無しのデッキが新発売された時、どんな感想を持ちましたか?
変態すぎて使い道を失う…
さて、今回ご紹介したTOWAのTCC-5000。
3ヘッドのオートリバースでダブルデッキ(正確にはツインデッキ)という恐ろしい構成のデッキです。
しかし、何故かノイズリダクションが搭載されていないという点が、さらに変態さを増しています。
挙句の果てに変態になりすぎて、もう使い道がわからなくなってしまうようなデッキになっています。
もちろん、何かしらの記録用としてこのデッキが生まれたとは思いますが、用途が特殊なのかオーディオ用として使うのは難しいかもしれません。
業務用ブランドのTASCAMの部品を使っているところからして、これこそ業務用デッキといったデッキと言えると思います。