こんにちは、こんばんは。西村音響店の西村です。
今回は、「よっさん」からご依頼いただきました、SONY TC-K777のご紹介です。もうスリーセブンの通称でお馴染みですね。
ご依頼いただいたTC-K777は、元箱に包まれて音響店に到着しました。昭和51年の段ボール箱を、令和になっても大事に保管されているところから、よっさんの愛着を感じます。
普通の人から見ればただのボロボロボの箱ですが、僕と皆さんから見れば値段の付く箱です。オークションでは、元箱付きのデッキですとよく値が上がります。
元箱までしっかり保管されているのは、それだけ大事にしているということです。少しでも自分のデッキの価値を分かってくれるところに持っていきたいですよね。
目次
動かない理由は固着。でも、いつも通りです。
さて、今回のTC-K777は、再生ができない症状でご依頼いただきました。さっそく確認してみましょう。
再生ボタンを押してもすぐ停止状態になりました。
しかし、何度か操作を繰り返していると、ヘッドとピンチローラーが上がって再生モードになりました。機械部分が固着しているときに起こる特徴的な動きです。
機種にもよりますが、昭和生まれのデッキでは長期間使わない状態が続くと、このようになることが多くあります。ひどい時には、部品を分解しようとしても1mmたりとも動きません。今回は比較的弱いので、ガチャガチャと操作をしていると動くようになりました。
ただ、油断は禁物。
この修理は6月に行っているので、運よく動いた可能性もあります。寒くなれば、まだ動かなくなってしまうでしょう。
そのためにもオーバーホールで、猛暑でも極寒でも…とは言いすぎですが、季節が変わっても安定して動作してくれるようにします。カセットデッキは、10~30℃の部屋で使ってくださいね。特に冬は暖気をお忘れなく。
固着自体は、スリーセブンではいつもの事ですので、特段厄介なことではありません。
初めてのスリーセブン修理を思い出しながら…
それでは、分解に取り掛かりましょう。
まずはメカニズムを本体から取り外します。
「キャビネット⇒フロントパネル⇒配線取り外し⇒メカニズム取り外し」
の順で進めていきます。
僕が初めてスリーセブンの修理に挑んだのは、2017年10月でした。その頃を思い出しながら、進めていくことにしましょう。
まずはキャビネットです。ここは四隅のネジを外すだけで、非常に簡単です。
修理のスタートは、まず中を露出させることから。
スリーセブンは1枚の鉄板のような形で外れます。多くのデッキはコの字のキャビネットですので、少し変わっています。1995年に登場したTC-KA7ESも同様なキャビネットです。
つづいて、フロントパネルの取り外しです。ここでポイントが1つ。
フロントパネルは、再生や停止などのテープの操作ボタンと一体となっています。そのため、予め操作ボタンの配線を抜き、フロントパネルと一緒に取り外すのがポイントです。
初めてスリーセブンの修理をしたときはこのコツが分からず、パネルとボタンがばらばらになってしまいました。もちろん分解はできるのですが、今と比べると少し効率が良くなかったですね。
フロントパネルが外せたら、メカニズムを取り外しです。その前に、外すべき配線をすべておきます。外す配線は以下の12本。
・再生ヘッド
・録音ヘッド
・消去ヘッド
・キャプスタンモーター
・リールモーター
・ヘッド用ソレノイド
・ピンチローラー用ソレノイド
・ブレーキ用ソレノイド
・電球
・リール回転センサー
・キャプスタン回転センサー
・検出スイッチ
普通のカセットデッキよりはかなり多いです。モーター、ソレノイドに繋がるコネクタが、1個1個になっていることが要因となっています。3ヘッド方式の方がヘッドが独立している分多くなりますが、それでも大抵7~8本です。
再生ヘッドの配線は、直接はんだ付けされています。
スリーセブンの特徴的な部分と言ってもよいでしょう。2代目のTC-K777ESも直接はんだ付けです。でもなぜか、3代目のTC-K777ESⅡは通常のコネクタです。
配線を外したら、メカニズムを取り外します。スリーセブンでは、画像のように手前側の枠組みごと外すのが重要ポイントです。
ここも最初は分からず、メカニズムだけ外そうと頑張っていました。
でも実は、キャビネットの裏側にメカニズムの外し方が書いてあります。スリーセブンを持っている方は、是非確認してみてください。独自の用語かもしれませんが、メカニズムのことを「MD」と呼ぶそうです。
メカニズムを降ろし、分解に取り掛かります。
再生動作はできたので固着の度合いは激しくないように見えますが、まだ安心できません。
例えば、こちらの画像ですが、軸の部分に耳垢のようなものが付着している様子が確認できます。
これが、乾燥しきったグリースです。再び固着することを防ぐには、これを洗い流すことが大切です。
さて、スリーセブンのメンテナンスは、大きく3つの部分に分けて行います。(最初は3つに分けるなど考えもしなかった)
3つの部分とは、
・カセットホルダ
・巻取り機構
・ヘッドブロック
それぞれ固着しやすいポイントがあります。
まずは、ヘッドブロックから。この部分で固着しやすいのは2カ所あります。再生できない故障の要因を作る部分です。
まず1カ所目。ヘッドやピンチローラーを上下させるレバーです。メカニズムの後側に付いています。
軸受けとなる部分(○で囲んだ部分)にグリースが塗られているのですが、このグリースが固まってしまいます。ひどい時は少々力業が必要になることもあります。
もう1カ所が、ピンチローラーの首振り部分。ここも同じようにグリースが塗られていて、やはり固着しやすいです。
今回のTC-K777は、左側だけがまったく動かないほど強く固着していました。過去には、両側とも固着していた例もあります。
脱脂洗浄を行って、このように光沢が出るくらいの状態にします。
製造当初はこのような状態であったはずです。
少しでも新品に近い動きにさせるには、単にグリースを塗り足すのではなく、洗浄が欠かせません。
ピンチローラーもこのように分解し、完全にグリースを洗い落としてから注油を行います。
先に述べたように、固着しやすい部品の代表ですから、しっかり洗浄しましょう。
ヘッドブロックを組み立てたら、次は巻取り機構の作業へ移ります。
テープの巻取りができなくなるような故障は、この部分が原因となっています。例によって固着も起きますが、最も大きな原因はゴムの劣化です。
スリーセブンでは、リールを回転させるのにリング状のゴムを使っています。しかし、ゴムが経年で表面が硬くなってしまうと滑って回転力を伝えられなくなります。自動車の古いタイヤと同じです。
巻取り機構も、脱脂洗浄を行ってからグリースを塗り、再び組み立てます。もちろん、ゴムリングだけでなく、ゴムベルトの交換も忘れずに。
固着とは関係ない部分にはなってしまいますが、絶対に動かなくなることはないような部分も、念を入れて潤滑します。
ソレノイドの鉄心ですが、シリコーンスプレーを湿らせたウェスで拭いておくと、金属の引っかかりが少なくなってスムーズな動きになります。
少し面倒ではありますが、一か所一か所処置を行っていくことが欠かせません。
最後に、カセットホルダです。ここも固着すると非常に厄介です。なぜなら、開かなくなってしまうから。
もし、開かなくなってしまった場合は、キャビネットを開けて内側から押して少しずつ開けることになります。固着した箇所をスプレーで柔らかくすることができれば難しくないのですが、残念ながらフロントパネルが外せない状態では厳しいです。
最後にカセットホルダを取り付けて、完成です。早ければ、分解から組立まで4時間程度で完了します。
このように、固着しやすい箇所を徹底的に洗浄することで、またすぐに再び固着してしまうことを防ぎます。
初めて修理したときは僕もど素人でしたから、スプレー油を差すだけで済ませていました。品名は申し上げませんが、どこの店にもよく売っていそうなモノです。それから、徐々に技術が向上し、現在のように完全分解と脱脂洗浄を行うようになったというわけです。
正直に申し上げると、最初は動くだけで感動していました。初めて自分でブレーキを離して車を動かした瞬間と同じです。しかし、段々とそれが当たり前になってきます。運転技術が上がることと一緒で、修理技術も徐々に上がっていったと思います。
初修理となったスリーセブンは、その後もう一度完全分解でメンテナンスをやり直し、現在はレンタルデッキの一員となっています。
マクロレンズでS&Fヘッドを観察する
組み立てを完了する前に、やる事が1つあります。
それが、ヘッドのマクロ撮影。
簡単にスマホに取り付けられるマクロレンズを使って、スリーセブンのヘッドを撮影しました。この方法が思いのほか、ヘッドのチェックに役立っています。
さっそく、見てみましょう。
表面はきれいなものです。摩耗したヘッドに見られる凹凸もありません。
もっと拡大できます。
これまで何台かスリーセブンを見てきましたが、S&Fヘッドに関しては摩耗しているものはありませんでした。先輩にあたるTC-K75でも、摩耗は殆どなくかつ音質もクリアーで、非常に完成度の高いヘッドだと思います。
製造から40年近くても綺麗な状態ですから、50年になってもまだ大丈夫そうな勢いです。
メカニズムの修理は今後もできますが、ヘッドの問題はどうすることもできません。
どのデッキも摩耗に強ければ嬉しいのですが、惜しくも摩耗に弱いヘッドもあります。
ヘッドを長持ちさせるには、定期的なクリーニングが欠かせません。ただ、それよりも大事なことは、1回1回の録音再生を大事にすることです。
Super Metal Masterで音質チェック。
修理完了後に行う動作チェック項目の一つでもあります。
最高峰のテープと最高峰のデッキ(Nakamichi 1000ZXL)で録音された音をこのTC-K777で再生すると、果たしてどんな音になるでしょうか。
【テクノ系】音源:『魔王魂 サイバー12』 (約1分)
【EDM】音源:『D’elf Overcome Difficulties』 (約1分半)
MA-XGでもテストしてみましょう。
こちらは、ドルビーBでオーケストラを、ドルビーOFFでアコースティック系を録音したテープです。録音デッキはSuper Metal Masterと同じく、Nakamichi 1000ZXL。
【オーケストラ】音源:『魔王魂 シンフォニア第1番』 (約3分)
【アコースティック】音源:『魔王魂 アコースティック14』 (約1分半)
TC-K777は、どちらかと言うと柔らかめの音質で、あまり輪郭は強調してこない方だと思います。ただ、それでもしっかり透明感はキープしているところが、初代スリーセブンの音だと感じさせられる特徴です。(僕自身の印象です)
MA-XGの生楽器系の方がしっくり来ますね。(テープが違うので比較があてになりませんが…)電子楽器系は角が少し甘くなる分、苦手のように感じます。
今回のまとめ
今回のTC-K777の故障は、固着が原因でした。今回のような壊れ方が、最も安心です。
他の家電までどうかは分かりませんが、良い壊れ方と悪い壊れ方があると思います。良い壊れ方をしてくれると、修理もしやすいことが多いです。
ぜひ、これからも元箱と共に、大事にしてただけたらと願う次第です。