西村音響店

TC-K777ESⅡ―最初から完全分解することにすれば修理も楽。

TC-K777ESⅡ―最初から完全分解することにすれば修理も楽。

こんにちは、西村音響店でございます。

今回ご紹介するデッキは、SONY TC-K777ESⅡ。スリーセブンの三代目です。新潟県の”かいこさん”よりご依頼いただきました。ありがとうございます。

5月、6月、7月と、スリーセブンのご依頼があり、一時的に7台も居るといった状況になりました。

SONY TC-K777ESⅡ テープは再生できず、ソースの入出力のみ行える状態。

さて、今回のTC-K777ESⅡ、テープの操作ができない故障を抱えています。

この手の故障は、油(グリース)の固着によるもので、777一族ではよくある事です。全く深刻な故障ではありません。

カセットデッキの修理というと、ゴムベルトなどの部品を交換することによって修理するというイメージがありそうです。しかし、固着は厄介なことに部品交換では直らないのです。

そこでオーバーホールという手段になります。固着を完治するにはこれが一番です。

 

 

※以下、3台のスリーセブン(777、777ES、777ESⅡ)は777一族と呼ぶことにします。

 

まずは普段通りに修理の準備をする。

それでは、修理に取り掛かりましょう。

まずフロントパネルを外します。テープの操作ボタンも一緒になっていますので、ボタンの配線も一緒に外してしまいます。

ネジは上側3カ所、下側3カ所です。下側のネジを外すときは、デッキを縦に置く方法でも良いですし、逆さまにして作業してもOKです。縦にするときは横転しないようにしっかり支えます。

なお、ヘッドの真下にはカバーのような部品があります。これも取り外しの妨げになりますので、先に外しておきます。

TC-K777ESⅡ ヘッドの真下にあるカバーを外す。

 

上と下のネジを外せたら、ボタンの配線を外に引き出しつつパネルを手前側にゆっくり取り外します。

TC-K777ESⅡ フロントパネルを固定するネジを外したら、ゆっくり手前に引いて取り外す。

 

 

次はメカニズムに繋がる配線を外します。

ただ配線を外す作業なので簡単ではありますが、本当にただ外すだけですと後で困ります。777一族では、同じピン数のコネクタが複数あるため、何か印をつけておかないと間違って接続してしまう恐れがあるためです。

TC-K777ESⅡ 同じピン数のコネクタには印をつけること。

致命傷を与えてしまって修理不能になることもあれば、接続し直して何の問題もないこともあります。

デッキによっては、例えば3ピンのコネクタが2つあったとしても、片方をあえて4ピンすることで間違いを物理的に防止しているものもあります。そういったデッキは、整備中も安心です。

 

録音ヘッドと消去ヘッドの配線は、基板に隠れているためそのままでは外せません。ですので、一旦基板を避けてあげることが必要です。

この基板は、メーター表示用の信号を送る回路、キャリブレーション用の発信回路、ドルビーの切換え回路が載っています。

TC-K777ESⅡ 消去ヘッドと録音ヘッドのコネクタは、基板の下に隠れている。

録音ヘッドと消去ヘッドの配線が外せたら、基板を元に戻します。やりっぱなしはダメです。特に一時的に避けるためだけで配線を外した場合は、少しでも間違って接続することを防止するために、すぐ戻します。一番怖いのは、後で「どこに差すんだっけ?」と迷うことです。

かといって日常はやりっぱなしの事が多いですが…

 

メカニズムの配線が外せたら、固定するネジを外します。上側3カ所、前面4カ所、下側2カ所です。普通のデッキと外れ方が変わっているため、注意が必要です。

このように、デッキ手前側の枠組みと一緒に外せれば正解です。TC-K777ESⅡに限らず、三代共通の取り外し方です。

TC-K777ESⅡ メカニズムは手前側の枠組みごと外す。

予め取り外しやすいように、配線の整理をしておくとスムーズです。

 

 

完全分解を前提としている理由。

機械的な部分に関しては、777一族が同じ構造をしているので、壊れる箇所も同じです。

レバーの軸部分にあるグリースが固着して動かなくなる原因がお決まりのパターンです。ですので、固着して動かなくなった部分をグリスアップすれば直ります。

TC-K777ESⅡ メカニズムを取り外した。

・・・

それでは、ただの修理です。

個人的にそのような方法は、逆に面倒臭く感じます。なぜなら、どの部分をどうやって修理するかを考える必要があるから。

ならば完全に分解して状態をリセットしてしまえ!という事が、僕のカセットデッキ修理に対する考え方です。機械的な故障に関しては、修理の方法を考えなくとも自動的に直ってしまいます。結果的に、修理に付き物である料金の見積もりが意味を果たさなくなりました。あるとしたら、他所に料金が比べられないように隠しておくくらいです。

さらに言うと、分解する前に原因が100%特定できるという事はありません原因が特定されるのは分解中、あるいは分解後です。既にやったことのある機種でしたら、分解せずとも原因は分かります。故障パターンがだいたい決まっていますからね。初めての機種こそ、完全分解です。

ただし、この方法のデメリットとして、組み立てを上手く行なわないと調子よく動いてくれない点があります。組立てにすべてが掛かっていると言ってもよいかもしれません。

 

 

そのような事を踏まえて、今回も完全に分解していきましょう。

まずは、カセットホルダーを外します。

激しく固着したデッキですと、開くことすらできないものもあります。再生できなくとも、開くだけ全然良い壊れ方です。

カセットホルダーを外すと、ヘッドブロックが剥き出しになります。ここで固着しやすい箇所が2カ所あります。ピンチローラの〇の部分です。

TC-K777ESⅡ 固着しやすい部分その1、ピンチローラーの首振り部分。

ここをグリスアップすれば直せるかもしれませんが、残念ながら固着部分は後ろ側にもあります。

 

 

後ろ側を分解していきましょう。

キャプスタン、巻取り機構、レバーを動かすソレノイド、FGコイル(回転速度を計るコイル)、と順に外していきます。

すると、このような状態になります。

TC-K777ESⅡ 固着しやすい部分その2、メカ後ろ側のレバーの軸部分。

先に申し上げた、メカニズムの後ろ側にある固着部分、それが〇の部分です。ここの固着が最も厄介です。

固着するとレバーが動かなくなって、ヘッドやピンチローラーが上がらなくなります。先ほどのピンチローラーの部分もですが、この部分と合わせて固着することが777一族では多くあります。

 

レバーも取り外し、後ほど脱脂洗浄を行います。

TC-K777ESⅡ 固着したレバーを外す。

残っている部品はヘッドとピンチローラーだけになりました。

このように、完全分解に近い状態まで結局分解することになってしまいます。「どこまで分解すればいいのか?」と不安になるよりは、「最初から分解しちゃえ!」と決めておくと精神的にも楽です。ただ、あくまで僕が採用している方法ですので、それぞれやり方があると思います。

 

 

分解が終了しました。

TC-K777ESⅡ メカニズムを完全に分解した状態。

古くなって固まったグリースを洗い落とすためには、ここまで分解あげる必要があります。そうするとパーツクリーナーで丸洗い出来てしまうので、ピカピカの状態にすることができます。

 

地板です。あちらこちらにグリースが付いています。

このような箇所の固着が徐々に蓄積していって、やがて動かなくなってしまうのです。

TC-K777ESⅡ メカニズムの地板を洗浄する前と後を比べる。洗浄で古いグリースを完全に落とす。

ですから、古いグリースを完全に落とすことが重要だと考えています。洗浄後のきれいな部品を見られると、やはり気持ちいいですね。

 

ピンチローラーも、このように軸から外してあげると、固着した部分を丸洗いできます。バネにも固まったグリースが付いていますので、洗えるものは全部洗います。

TC-K777ESⅡ ピンチローラーを軸から外し、固着した部分を洗浄する。

 

メカニズムの後ろ側にあるレバーです。特に穴の部分は、ウェスでごしごし拭いてあげないと落ちないくらい固着していることもあります。

TC-K777ESⅡ 固着したレバーを洗浄する。洗浄前は古いグリースがべっとり付着していた。

今回も、なかなか良い具合に固まっていました。

 

 

続いては、巻取り機構をメンテナンスしていきます。まず、前と後に二分割します。

TC-K777ESⅡ 巻取り機構の分解。まず前後2つに分割する。

重要なのは後ろ側です。

ここにもグリースが塗られた部分があり、少し固着気味になっていました。特に矢印の部分、固着を起こした時に見られる耳垢のようなものが付着しています。

TC-K777ESⅡ 巻取り機構の固着部分。早巻き用のアイドラが付いたレバーが動かなくなる。

 

あいにく、分解中の画像を取り忘れてしましたが、部品を洗浄してから新しいグリースを塗る手順は同じです。

さらに、この部分にはテープの回転(アイドラー)に使うゴムがあります。すでに劣化しているため、交換します。大と小の2つがありますが、小の方は弾力を失って粉々です。(777一族ではいつもの事です)

TC-K777ESⅡ 再生用アイドラーのゴムが硬化して砕けてしまった。新品に交換する。

 

途中まで組み上げた部分と合体します。ベルトが1本ありますので交換します。

TC-K777ESⅡ 巻取り機構の組付け。リール台を挟むコの字の部品があるので、忘れずに付ける。

ここで組立て時のポイントがあります。矢印で指した2か所ですが、コの字型をした部品があります。スタビライザーのようなものです。この部品で巻取り軸を挟むように取り付けることがポイントです。

TC-K777ESⅡのみ付いている部品で、回転のガタツキを押さえる役割を担っています。
初代(TC-K777)と二代目(TC-K777ES)では、早送り、巻戻しをするとカタカタ音がします。ESⅡは音がせず、回転音も静かです。

フェリクロームが使えないのは惜しいですが、メカニズムの細かな改良がされている点では、ESⅡもイイね!と思いますね。

 

TC-K777ESⅡ メカニズムの後ろ側の組立てが完了。

後ろ側の組立てが完了しました。キャプスタンベルトも新品に交換しています。

 

残りはカセットホルダーのみです。ここもこのように分解できます。

TC-K777ESⅡ カセットホルダーを分解して脱脂洗浄を行う。古いグリースをしっかり洗い流す。

過去に1台、ここも固着して完全に開かなくなってしまったデッキもありました。

普通のデッキは固着でホルダが開かなくなることは多くありません。しかしスリーセブンでは、例によってグリースが塗られているので、開かなくなる事も考えられます。

 

カセットホルダのリッドです。六角レンチがあれば、アクリル板も外すことができます。外してきれいに清掃です。

TC-K777ESⅡ カセットホルダのリッドにあるアクリル板は六角レンチで外すことができる。

 

 

Super Metal Masterで音をチェックする

テストテープやホワイトノイズを使っての調整が終わって、音質チェックテープとしているSuper Metal Masterを再生します。

TC-K777ESⅡでスーパーメタルマスターを再生するとどんな音がするのか。

はたしてどんな音がするでしょうか。

TC-K777ESⅡ
音源:魔王魂 サイバー12 【テクノ系】

今回は、同タイミングで初代(TC-K777)と二代目(TC-K777ES)をお預かりしていました。777一族で比べるという事も実現しましたので、ぜひ聞き比べてみて下さい。曲とテープは同じです。

みなさんは、どのスリーセブンがお気に入りですか?

TC-K777

TC-K777ES

 

 

今回のまとめ

以上、今回は完全分解の修理方法をとっているかの理由と併せながら、三代目スリーセブン、TC-K777ESⅡのご紹介でした。

確かに手間が余計にかかってしまうのですが、完全に状態をリセットしてしまえば修理の成功率も高まりますし、結果的に効率がよいです。

 

お陰様で、これまで777、777ES、777ESⅡとを実際に触ってみることができましたが、やはりどのデッキも捨てがたいです。

もし、一番好きなのはどれ?と聞かれたとするならば、「3台のハイブリッド」ですかね。ヘッドは初代のS&Fで、メカは777ESⅡで、アンプは777ESで…みたいな感じです(笑)-本当に実現できるのだろうか?

でもやってみたいですね。これまで培った経験を活かして。

 

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