こんにちは、西村音響店でございます。
2020年2月開催の修理にお申込みくださった皆様、ありがとうございました。
今回ご紹介するにはA&Dの最上位モデル、GX-Z9100です。中古でもそこそこ出回る機種で、他の方もブログを書かれていたりすると思います。
ただ、今回のGX-Z9100は奇跡といったらオーバーな表現かもしれませんが、今後そうそう出会えなくなるだろうといった状態のデッキです。
修理歴なし+超美品。
今回のGX-Z9100は何と言っても綺麗!
オークションのタイトルで超美品!と謳っても詐欺にならないくらいのレベルです。
デッキに近づいて撮影しても、塗装の痛みや大きな傷は見当たりません。そして美品と謳うのに欠かせない要素がサイドウッドです。
この光沢感です。多くは擦り傷やひっかき傷が入って、光を当てると反射します。しかしこのGX-Z9100は乱反射していません。どうしても木製である以上は高温多湿によって劣化しますし、酷い時にはシロアリに腐食されたような跡があったりと、サイドウッド一つでもデッキの価値を左右します。
もう一つの素晴らしいポイントは、修理歴がないことです。
修理歴があるかどうかは、キャビネットを開けて配線の状態を確認することで判別できます。特に注目するのはタイラップ(結束バンド)です。
このGX-Z9100に限らず、A&Dの3ヘッドデッキは配線の本数やコネクタは同じです。修理するときは、矢印で指したタイラップを必ず切ることになりますので、修理歴があれば新しいタイラップに変わります。このデッキは、色の黄ばみ具合からして修理歴はありません。
実はもう1か所確認できる箇所があります。場所はデッキの下側です。デッキをひっくり返して底蓋を開けます。
ここのタイラップです。再生ヘッドや録音ヘッドのコードが結束されていて、ここも修理の際は必ず切ることになります。先ほどのタイラップの色と同じですので、修理歴なしと判断して間違いありません。
デッキの外観が綺麗で、かつ修理歴なし。シャンク品修理を趣味にされている方からしたら、理想のジャンク品ではないかと思います。
しかし年々このような状態のデッキは少なくなっていくでしょう。拍車をかけているのがオークションの存在です。オークションのシステム自体は否定しませんが、一個人でモノを出品できることから小遣い稼ぎする人が出てきます。ストレートに言えば転売です。せっかく理想のジャンク品が出ていても、残念ながらそういった人達に回ってしまうのが現状です。
どうにか、状態の良いをデッキを守っていき、皆さんの資産にできないか色々考え中です。
10年前はインターネットでお金を稼ぐことが今ほどメジャーではないと思うので、転売も少なかったのではないかと思います。10年前というと僕は中学生ですので、詳しい事情はわかりません。
カセットデッキの良い壊れ方とは
さて今回のGX-Z9100、とうとう再生できなくなってしまったという事で入ってきました。
故障の原因はグリース(油)の固着です。A&Dの3ヘッドデッキでは定番の故障ですが、問題は固着の度合いです。特にピンチローラーの動きが悪くなるのですが、試しに綿棒で突っついてみると渋いですが動きます。
良い壊れ方です。固着がさらにひどい時は全く動きません。
購入当時は動作品だったということで25年余り無修理で動き続けたことになります。奇跡的です。「よく頑張った!」と褒めたくなるような素晴らしい壊れ方をしてくれています。良い壊れ方というと語弊があるかもしれませんが、実は壊れ方にも良し悪しがあります。
ちなみに音響店のレンタルデッキのGX-Z9100EVは、1994年製にも関わらず故障していました。保管状態によって劣化のスピードが変わるという事がわかります。
修理開始・一発目のメスを入れる。
それではタイラップを切って修理に入ります。いつもであれば何気なく切ってしまうタイラップですが、修理歴なしということで何故か緊張しています。
まずはメカニズムを取り外すところからです。
固着したメカニズムの修理は、部品を全て分解することに尽きます。自画自賛するわけではありませんが、カセットデッキの中でも固着の修理は最も得意です。
どんなデッキでも完全にばらしてしまえば大抵直ってしまいます。直らない場合はというといと、組立て不良の場合ですね。この場合はそもそも技量不足が原因です。
すべての部品がバラバラになりました。メカニズムの取り外しからここまで約1時間です。個人的にはちょっと遅いかな?というところです。
スムーズに進めば40分くらいで出来ると思っていましたが、途中で手こずった場面がありました。
それがこの部分です。
この大きなカムギヤですが、Cリングで留まっています。これを外すのにヒヤヒヤします。振り返れば4分余り格闘していました。
外すにはスナップリング用のプライヤを使いますが、力加減を誤れば先端が「ポキッ」と折れてしまう代物です。それでいて1,000円強する工具ですので、下手すれば一瞬でダメになってしまいます。そんなトラウマがあって余計にヒヤヒヤするようになります。
修理を始めた頃は専用工具の存在を知らず、マイナスドライバーで無理矢理外していましたが、今振り返れば絶対にやってはいけない外し方だと大いに反省しています。部品にド派手に傷を付けてしまうからです。
カセットデッキに限らずですが、工具をケチってろくな事はありません。でも何故か急がば回れができなくなるのが人間の心理です。
固着修理には自動車整備でおなじみのアレを。
固着の修理に欠かせないアイテム、それがパーツクリーナーです。
自動車な機械などの整備には必須ともいえるアイテムですが、カセットデッキも機械的な部分があるということで共通点があります。
1台のデッキに使う量ですが、概ね2台で1本という計算です。今回も半分くらい消費しました。
スムーズな動作を取り戻すために脱脂洗浄は欠かせない作業なので、全てのデッキで実施しています。
メモ:
パーツクリーナーは、プラスチックとゴムに対応しているものを使います。金属専用のような強力なものでは部品を痛めてしまう恐れがあります。
外した部品をカップの中に入れ、パーツクリーナーをたっぷり噴射します。このデッキはグリースの量が半端なく多いため、洗浄後は…
パーツクリーナーが真っ黒になります。ここまで黒くなるのは、アカイのデッキくらいです。
ちょっとここで余談ですが、僕はカセットデッキ以外に自転車のメンテナンスも少しずつ勉強しています。
チェーンが油切れを起こすとペダルが重たくなるのはご存知だと思います。そんな時に油を差せば間に合うかもしれませんが、その前にパーツクリーナーで一旦油を全部洗い流してから新しい油を差すと驚くほど軽くなります。指一本で軽々ペダルが回ります。
カセットデッキも一緒です。古い油を完全に洗い流すことで軽くなることから、ゴムベルトなどの部品への負担も減らすことができ、スムーズな動きを永い間保てます。
おわりに
今回は比較的中古でも出回りやすいA&D GX-Z9100の中でも希少種である、修理歴なしで超美品のデッキをご紹介しました。
それほど固着もしていなくて非常に修理しやすく、自分で直せる人によってはこのような状態のデッキが理想だと思います。修理業者の中では既に弄られているデッキの修理を断るところもあるそうですが、確かに弄られているデッキは面倒な事になることがあるので、その気持ちも分からないでもないです。
このGX-Z9100は球数自体は多いのですが、外観が良いものはなかなか出会えません。オークションでも写真だけで良い状態かどうかを見分けるのは非常に難しいです。どうしても運任せになってしまうところです。
ぜひこれからも大事にしていただければ嬉しい限りです。
【このデッキの音質】
1000ZXLで録音したスーパーメタルマスターを再生
機材協力:
北海道 のぶランディーさん
※3ヶ月ぶりの記事更新となりました。執筆の感覚があやふやになってしまったので、暫く慣らし運転しながら更新します。