西村音響店

Nakamichi DRAGONが2台!実は年式で色々と違います。

Nakamichi DRAGONが2台!実は年式で色々と違います。

 

DRAGON。

ヘッドのアジマス調整を自動で行うNAAC(Nakamichi Auto Azimuth Correction)を搭載した、インテリジェントなカセットデッキです。

どんなテープでも記録された音を100%再生ヘッドで拾うことができ、再生音質ではトップを争う実力を持っています。「ナカミチといえばDRAGON」というくらい、当時憧れていた方も多いのではないでしょうか。

 

さて今回は、何故か同じDRAGONを2台用意しています。

「ダブルドラゴン」です!

熱血くにおくんの竜一と竜二じゃないですけど…(^^;

 

実はこのDRAGON、製造期間はなんと10年以上。カセットデッキとしては結構なロングセラーモデルです。外観を大きく変えずに10年以上生産されました。ということもあり、年式によって相違点があります。

自動車における、途中で改良やマイナーチェンジが行われる事と似ていますね。詳しい方だと、改良前を「前期モデル」、改良後を「後期モデル」などと呼んだりします。中には「中期モデル」が存在する車種もあったようです。

 

というわけで今回は、1981年製のDRAGONと、1993年製のDRAGONを徹底比較します。

年の差、実に12年!

 

 

外観の違い

まずは2台を並べてみます。といっても、同じDRAGONなので違いは殆どありません。前面はまったく一緒ですが、外観で違う部分が2つあります。

 

キャビネットの塗装

遠くからだとなかなか分かりにくいのですが、アップして写真を撮ると分かります。

ちょっと塗装のしかたが違います。初期型は艶消しのような色合いです。俗にいうマット塗装といったところでしょうか。後期型は艶があるほか、少しザラザラ感がある塗装となっています。ちなみに初期型と近い世代であるLX-3もマット塗装でした。

 

後期型はネジが2本多い。

後期型は入出力端子の上あたりに、余分にネジが2本付いています。塗装の違いは写真だとなかなか見分けが難しいですが、ネジの違いであれば判別しやすいですね。このネジの正体は後ほど。

 

そして、面白いのが製造番号。

1981年製の方、かなり番号が古いです。恐らくこのDRAGONは製造最初期のものの可能性がありますね。かなり希少な個体です。

一方、後期の方は30000番台になっています。これだけのDRAGONが製造されたということなのでしょうか。当然ながら何割かは海外にも輸出されていると思います。一体、日本への割り当てはどのくらいだったのでしょうね。

 

キャビネットオープン

さて、外観はまったく一緒ですが、デッキの中は一体どうなっているのでしょうか?ちょっと覗いてみましょう。

マウスのポインタを画像の上に乗せるとキャビネットを開きます。スマホの方は画像をタップしてください。


 

いかがでしょう。全然違います。後期型の方は、なぜか基板が1枚多いですね。他にも細かい所を見ていくと、色々と違う部分があります。僕が2台のDRAGONとにらめっこして見つけた違いを5か所紹介します。

 

ノイズリダクション回路

最も大きな違いはノイズリダクションの回路です。後期型は大きな基板の上に後付けされたような形で装着されています。

後期型のノイズリダクション基板

さすがに10年も経つと、調達可能な電子部品も変わってきます。特にドルビー用のICは、僕の感覚的に2~3年で大きく進化していると思いますので、それに合わせてDRAGONも改良や仕様変更が行われています。

そして、外観の違いでご紹介した2本の余分なネジ。矢印の部分です。正体は、このノイズリダクションの基板を固定するためのものでした。

初期型は大きな基板にノイズリダクション回路が組み込まれていますので、上からは見えません。後ほどデッキの底から覗く時にご紹介します。

 

電源トランス

初期型の方は立派なシールドが付いたものになっています。

実際に無音状態で比較してみると、ほんの若干ですが後期型の方がハムノイズが聞えてきます。ただ、音量を最大にしないと聞こえないレベルですので、普通に楽しむ分には問題ありません。

ちなみにソニーのTC-KA3ESでも、生産途中で電源トランスが変更されています。KA3ESも1994~2003年ごろ(?)まで生産されていましたからね。

 

後付された怪しいトリマー

再生アンプの部分になりますが、初期型の方には不自然に取り付けられた謎のトリマーが。

初期型の怪しいトリマー(半固定抵抗)

僕も最初はよく分かりませんでしたが、少し回してみたり回路や配線を辿っていくと、どうやらNAACの動作を調整するもののようでした。このトリマーを変に動かすと、NAACが暴走します。

登場当時、画期的すぎる機能ということもあって心許ない部分があったのか、バックアップのために設置したのではないかなと思います。後期型はもうNAACの信頼性が高まったのかわかりませんが、調整用のトリマーはありません。

後期型にはNAAC調整用のトリマーがない。

 

NAAC用の動作ケーブル

モーターによって再生ヘッドを動かすためのケーブルです。初期型と後期型で色が違います。

ちなみに録音ヘッドの自動アジマス調整を搭載している1000ZXLは、青いケーブルです。

 

トランジスタのメーカーロゴ

ここまで細かいところまで行くと、もはやヲタクの領域になってしまいますが…(;´∀`)

ダイレクトトライブモーターの回路にあるNEC製のパワートランジスタです。後期型は、皆さんNECのパソコンでお馴染みのあのロゴが印字されています。調べると1992年から使用されているそうです。

本当にどうでもいい違いですが、1992年以降に生産されたことを裏付ける重要な手がかりになりますね。

 

デッキの底をオープン

次はデッキの底から攻めてみましょう。DRAGONの代名詞でもあるNAACの回路や、メーターの表示、キャリブレーションなどの機能を行う基板があります。

画像の上にマウスのポインタを載せてください。スマホの方は画像をタップです。


初期型は若干恐ろしいことになっています。とにかく後付け部品が多いです。

実は後期型の方は一昨年に修理で預かったことがあり、実機を拝見するのは2回目です。なので後期型は見慣れているので、そのつもりで初期型を見たら思わず目が覚醒してしまいました。

初期型は後付け電子部品で恐ろしいことに。(画像は電子部品交換前)

製造最初期ということもあって、プロトタイプ(試作機)的な一面もあるのではと思います。最初「いやぁ~流石にこれはやりすぎだろー」と思ってしまいましたが、先にYouTubeで紹介すると意外なことに初期型を好評するコメントもありました。

裏を返せば、「このごちゃごちゃ感は妥協せずに追及したことを表している」ということで、本当にこの頃のナカミチは抜かりがないと思います。今はもう手放してしまいましたが、581Zも同じような雰囲気がありました。

581Zのノイズリダクション基板。ジャンピングのやり方が恐ろしい。

また他の意見として、少数生産の場合はいちいち基板を作り変えるとコストが掛かってしまうという意見もあります。確かに、ソニーやTEACは後付けしているところを殆ど見たことがありません。ソニーの初代スリーセブンでも途中で改良が行われていますが、後付けはされていませんでした。

 

初期型のNR回路・後期型の元NR回路の跡

キャビネットを開いた様子でご覧いただいたように、後期型ではノイズリダクションの基板を後付けする形になりました。では、元々はどんな回路だったのか、初期型の方を見てみましょう。

初期型のドルビーNR回路

初期型ではドルビー用のICを4個使う構成になっていました。IC1個で1チャネル分、BタイプとCタイプに対応します。DRAGONは3ヘッドなので、再生用と録音用で2個ずつ使うという形です。

ちなみにドルビーICのメーカーはフィリップスです。型番はNE652N。しかし大元を辿っていくと、元々は米カリフォルニア州のSignetics(シグネティクス)社が製造していたようです。英語版Wikipediaによれば、1975年にフィリップス社に買収されたとのこと。

 

一方、後付け基板に引っ越してしまった後期型はというと…

後期型にある初期型NR回路の痕跡。

見事に無くなっています。その代わりに、後付け基板に信号を送るためのジャンパ線が増設されているといった形です。このような感じで初期型時代の痕跡が残っています。

 

ちょっと余談

Signetics社のICといえばNE545というICがが思い浮かびます。ドルビーCが登場する前、まだ「ドルビーシステム」と称された頃のICです。1970年代のカセットデッキに多く使われていますが、驚くことに検索するとデータシートが出てきます。NE652Nの方が新しいのになぜ出てこない…( ゚Д゚)

カセットデッキのドルビーシステムを普及させた第一人者ともいえるICですが、発熱が多く時限爆弾的なところもあります。実際に爆発したICも確認しています…

 

その他にも電子部品の配置違いなど…

機能面では初期型も後期型も変わらないのですが、基板を眺めていると電子部品の配置が色々と違う事に気づきます。

NAACの機能やメーターの表示を行う基板です。一番分かりやすい部分は画像左下のキャリブレーション関係の回路でしょうか。初期型はポカーンと空白エリアがあります。

右下の部分がNAACの回路ですが、こちらもよく比べると電子部品の配置に差があります。きっと後期型になって改良されていることでしょう。

 

音質

さて、絶対に欠かせない違いは音質です。

さすがに12年も製造年が違うし、これだけ回路に違いがあるのであれば、音質も違ってくるはずです。

今回の音質バトルは2パターンで行いました。1戦目は1000ZXLで録音したスーパーメタルマスターを再生、2戦目はDRAGONで録音して再生する自己録再方式での比較です。

 

1回戦:1000ZXLで録音したテープでチェック。

まずは純粋に再生の音質だけで比べてみます。録音デッキも同じナカミチですし、NAACも搭載していますから再生コンディションはかなり良いと思います。ドルビーはOFFです。

初期型

後期型

 

いかがでしょうか。違いがわかりましたか。

僕の感想ですが、後期型は少しドンシャリ傾向のように感じます。どちらかというとデジタルっぽい音でしょうか。1990年代になると、CDからの録音を意識しているためか、他のメーカーでもドンシャリ気味にセッティングされている傾向があります。後期型の音を聴くと、ナカミチもその流行りに乗っかっているような印象を受けました。

一方、「アナログの音」というイメージに近いのは初期型の方かなと思います。中高音域の主張が少し強めです。レコードからの録音には初期型の方がよさそうですね。

 

2回戦:現行URをドルビーCで自己録再。

初期型と後期型の大きな違いの1つであるドルビー用IC。回路設計も変わりましたし、メーカーも後期になってソニー製に変わりました。ということは、ドルビーを使った時の音にも違いがあるかもしれません。実験してみましょう。

まずは1回戦目と同じ曲で試してみました。しっかりドルビーCを使っている事がわかるように、最初の2秒に無音部分も入れています。

初期型

後期型

 

ドルビーCを使った時の音質ですが、傾向としては1回戦目と同じような感じです。少しだけ初期型の方が音に元気があるように思います。ただ、初期型はバイアス調整がかなりギリギリでした。もうあと少しでもバイアスを少なくしたら、歪みが多くなってしまうといった感じです。

後期型の方は、音質はどちらかというと大人しめですが、バイアス調整には余裕があります。余裕がある分、バイアスを少なめにして高音域を強めにする方法もとれそうです。

2台とも長所短所が違いますが、自己録再での音質は初期型に軍配を上げたいと思います。

 

実はYouTube動画の方でも自己録再バトルをやっていますが、少し条件が違います。動画の方はTDKのSAを使ってドルビーOFFで比較しています。ドルビーOFF時の比較をご覧になりたい方は、ぜひ動画もご覧ください。

 

延長戦:ドルビーNRの精度はどうか?

もう1つ気になるのが、ドルビー回路の精度です。いくら同じドルビーのCタイプだからといっても、ICのメーカーや型番、回路構成が異なると誤差も出てきます。

ということで、ジャズっぽい曲で試してみました。最初のハイハットの鳴り方で勝負です。

初期型

後期型

 

これは後期型の勝ちと言ってよいでしょう。

DRAGON以外にも、1981~1982年頃のデッキに搭載されているドルビーCは、打楽器の音に弱いことが多いです。特に残響をうまく処理しきれないことが多く、アコースティック系の曲を録音するとどこか不自然な雰囲気になります。(難しい言葉では、息継ぎ現象・ブリージングとも。)

ということで、ノイズリダクションをよく使うのであれば後期型の方がよいと思います。初期型も一応Cタイプは付いていますが、Bタイプまでに留めておいた方がよさそうです。

そもそも、ドルビーCで上手く録音再生するのはなかなか難しいです。ヒスノイズの低減効果が強い分、副作用も強く出てきますからね。

 

周波数特性

最後は周波数特性です。10年経てばテープの方も進化していますから、それに合わせてデッキが改良されているという事も不思議ではないと思います。例えばTDKのADでも、1981年ごろのADと1993年のAD、性能や音質はまったく違いますからね。

ということで、-20dBのホワイトノイズを録音したときの特性をスペクトルアナライザーで解析してみました。使用するテープはTDKの王道、AD・SA・MAです。どれも1990年ごろに発売されたモデルです。

ノーマルテープ

ノーマルテープの周波数特性(画像クリックで拡大します)

いきなりノーマルテープから特性に差が出てきました。注目したいのは1~10kHzの音域です。初期型の方はグラフが少し上に膨らんでいるような形をしています。後期型と比べると、少し中高音域が強めのセッティングになっているようです。

後期型は直線的な特性が出てきました。特にCDが普及しだした頃のカセットデッキに多い特性ですね。ナカミチもしっかりデジタルオーディオに対応するべく、改良を重ねているのではないでしょうか。

 

ハイポジ・メタル

それでは一気にハイポジとメタルも見ていきましょう。ナカミチのデッキで不思議なのは、テープのポジションが変わっても録音可能な周波数範囲が変わらないことです。

他社のデッキだと、ノーマルは18kHzまで、メタルは20kHzまでという風に、電子的に音域を制限するような仕様になっていることが多いです。カタログが無いのでDRAGONの公式スペックは分かりませんが、恐らく20kHzまで音域をカバーするような性能になっていると思います。

ハイポジの周波数特性(画像クリックで拡大します)
メタルテープの周波数特性(画像クリックで拡大します)

 

まとめ

今回の特集ですが、取り上げるきっかけとなったのは初期型のキャビネットを開けた瞬間です。思わず(?_?) ←こんな感じの顔になってしまいました。

ということで急遽、後期型を持っていらっしゃる方に協力をお願いして、今回の企画が実現しました。そして2台の実機を生で比べてみると、外観の微妙な違いだったり、まさか音質まで違うとは驚きです。

 

最後に、初期型と後期型を見分けるポイントをまとめてみます。判別しやすい順に並べました。

①デッキ背面のネジが2本多いかどうか

②製造番号

③キャビネットの塗装

④ノイズリダクション回路

⑤電源トランス

中古価格はベラボーに高いのでなかなか手が届きにくいとは思いますが、例えば商品画像を見て、初期型か後期型かを判断するときにこれら5つのポイントが判断材料になると思います。

無難なのは①と②ですね。オークションの出品物でもデッキの外観を四方から撮影しているものは多いと思います。製造番号も出品者によっては写してくれている場合もあります。

③はアップして撮影するか高画質の画像でないと難しいかもしれません。④と⑤もキャビネットを開けないと分からないので難しいですが、もしデッキの中の画像があれば決定的な判断材料となるでしょう。

 

今回は1981年製の初期型と1993年製の後期型を比べましたが、1987年頃に製造されたDRAGONも気になりますね。いわゆる「中期型」です。

きっと日本のどこかには存在しているはずなので、また機会があれば今回の続編としてお届けしたいと思います。

これだけ長い記事なったということは、ネタの宝庫でもあります(笑)

 

今回の機材

デッキ

・Nakamichi DRAGON (1981年製) 協力:「NAGISA」さん
・Nakamichi DRAGON (1993年製) 協力:熊木さん

テープ

・SONY スーパーメタルマスター(1993年)
・マクセルUR(2020年)
・TDK AD(1990年)
・TDK SA(1990年)
・TDK MA(1990年)

使用楽曲

・魔王魂 https://maoudamashii.jokersounds.com/

 

動画バージョン

 

Return Top