西村音響店

バイアス&EQ調整はボタン1つ◇オートチューニングカセットデッキ

バイアス&EQ調整はボタン1つ◇オートチューニングカセットデッキ

 

カセットテープの録音は、別にただ音を録るだけであれば、録音ボタンぽちっ!でOKです。音は録音できます。

ところが、我々カセットテープ愛好家は、いかに良い音で録るかが楽しみの1つだと思います。良い音で録るためには、使うテープの特性に合わせて録音レベルを調整したり、バイアスを調整したりと、色々と準備が必要です。

そして、ハイエンドのカセットデッキになると、メーターを見ながら▼印に合わせるようにLEVELとBIASのツマミを動かす、いわゆるキャリブレーション機能が搭載されていることが多いですね。

カセットテープ録音前の儀式(?)と言ったら大袈裟かもしれませんが、良い音で録るための準備はワクワクするひとときでもあります。時にはテープが不良品でショックを食らうときもありますけどね。

さて、今回紹介するのはオートチューニング機能です。煩わしく難しい操作をコンピューターが代わりに行ってくれる、賢いカセットデッキを紹介してみたいと思います。

 

 

オートチューニングって何?

さて、オートチューニングは、冒頭に少し述べたキャリブレーション機能の操作をコンピューターが行うというものです。カメラで例えるなら「オートフォーカス」でしょうか。

スタートボタンを押すと、デッキが自動でテープの特性に合わせて、バイアスやイコライザーの調整が行われます。あとはデッキに入力される音に合わせて、録音レベルを調整するだけです。

シャッターボタンを半押しすると、スッとピントを合わせてくれるといった感じに似てると思います。

 

1980年代に入ると、ハイエンドモデルを中心にオートチューニング機能を搭載したカセットデッキが各社から発売されました。当時の定価20万円近い、あるいは超えるような超弩級デッキが多くラインナップされたのもこの頃です。各社とも技術を総結集したデッキが登場しました。

初期のオートチューニングデッキはかなり高額でしたが、1990年代後半になると、定価5万円以下の廉価モデルにも搭載されるようになります。

手軽にオートチューニングを試してみたければ、1990年代後半の機種を探してみるのがおススメです。廉価モデルであれば中古でも比較的安く手に入れることができます。

 

オートチューニングを搭載しているデッキ5選。

それではオートチューニング機能が搭載されているデッキを5機種紹介します。もちろん他にも同機能を搭載したデッキはありますので、紹介するのは一部です。

一括りにオートチューニング機能といっても、調整の仕方は機種によってさまざま。ということで、実際にテープに録音されているテスト信号も一緒に紹介します。

どんなテスト信号が、どんなタイミングで使われているかを確認することで、各デッキのオートチューニングのやり方を知ることができます。ここもカセットデッキの個性が光るポイントです。

YAMAHA KX-580

YAMAHA KX-580

1995年ごろの機種で、カセットデッキとしても比較的後の世代になります。

廉価モデルに値する1台で、構造はオーソドックスな2ヘッド方式。それでもオートチューニングを搭載しているということで、特徴的な動作が1つあります。

ところで、カセットテープに録音した後、録れているかどうかを確認するには…ふつうはテープを巻戻しして再生をしますよね。(3ヘッド方式のデッキを除く)今となっては過去の光景になりましたが、カセットテープにおいてはごく普通の操作だと思います。

オートチューニングも例外ではありません。テスト信号を録音したら一旦巻戻して、どのように録音されているかを再生して確認する必要があります。

そのために、テスト信号の録音が終わると自動で巻戻し、再生を行う動作が特徴的です。人間が行う「録音したら巻戻して音を確認する」という動作を、そのまま自動化したような形です。

KX-580のオートチューニングボタン

動作の流れとしては、「テスト信号録音 ⇒ 巻戻し ⇒ 再生&調整 ⇒ 巻戻し ⇒ 録音スタンバイ」という順で行われます。スタートから完了までの時間は23秒でした。

【KX-580のテスト信号】

左チャンネルに1kHz、右チャンネルにバイアス調整用の13kHzが録音されます。左右で別の種類のテスト信号を録音する方式で、周波数は機種によって異なりますが、この方式は手動式のキャリブレーションでも多く使われています。

ちなみに2ヘッド方式のデッキでキャリブレーション機能というと、殆どが自動で行うタイプです。2ヘッド方式で手動式を採用しているのは、ソニーのTC-K501ESくらいです。

 

Victor DD-9

Victor DD-9

1981年頃のビクターのハイエンドモデルです。

このデッキのオートチューニングは、4つの信号音(8kHz,4kHz,1kHz,12.5kHz)を使って調整する方式です。イコライザー調整を2つの音域で行う点が、DD-9の特徴です。そのおかげで、フラットな録音周波数特性を実現しやすくなっています。

ただし注意なのは、テープセレクターが手動式である点です。切替を忘れると調整がうまく行えず、エラーになってしまうことがあります。

【DD-9のテスト信号】

所要時間は約25秒。スタートボタンを押すと、少しだけ早送りが行われます。リーダーテープ部分のスキップを考慮した動作になっていると思われます。

調整の流れとしては「バイアス ⇒ イコライザー(中音域) ⇒ 録音感度 ⇒ イコライザー(高音域)」の順です。短いパルス音が鳴っていますが、よく聞くと音がだんだん大きくなったり小さくなったりしています。

オートチューニングの操作部

 

AKAI GX-R88

AKAI GX-R88

AKAIは1981年のGX-F95以降、積極的にオートチューニング機能を搭載したデッキをラインナップしていきました。

このGX-R88は、1983年ごろに発売されたハイエンドモデルですが、さらに上の機種にはGX-R99が存在します。GX-R88では一部機能が省略されているだけで、基本性能は変わりません。

3ヘッド方式かつオートリバースかつクローズドループ走行という怪物デッキですが、これら以外にも謎な要素あります。

オートチューニングのスタートボタンすら、ありません。

これは録音ボタンを押すと勝手にオートチューニングが始まるというものです。少し意地悪な言い方をすると、強制的にオートチューニングをさせられるといった形です。

録音ボタンの上にQUICK AUTO TUNINGと表記されている

これでは録音前にオートチューニングに、いちいち時間が取られてじれったい気分になりそうですが、安心してください。あっという間に終わります。

調整にかかるのはたったの2秒

素早く調整が行えるようになっているためか、録音とオートチューニングのスタートを兼用していると思われます。

【GX-R88のテスト信号】

GX-R88、GX-R99のほか、オートリバース無しのGX-9も同じ機能が搭載されています。いずれも、AKAIのオートチューニング搭載モデルとしては最後の世代です。

1986年発売のGX-93では、残念ながらオートチューニングどころか、キャリブレーション機能も搭載されていません。

 

TEAC V-900X

TEAC V-900X

TEACはどちらかというと手動調整を行うデッキが多く、オートチューニング搭載のデッキは少数派です。さらにV-900Xはdbxノイズリダクションを搭載しており、dbxとオートチューニングの組み合わせはなかなか少ないです。

V-900Xは1983年ごろのデッキで、型番に9が付くことからハイエンドっぽい機種に見えますが、さらに上にはZシリーズ(Z-5000,Z-6000,Z-7000)があります。

3つの信号音を使って、録音感度の補正、バイアス調整、イコライザー調整を行うタイプです。DD-9と同様に手動式のテープセレクターなので、ノーマル・クローム・メタルの選択が合ってるか確認してから、オートチューニングをスタートさせます。

「AUTO CAL」を押すとスタート。

所要時間は16秒。先ほど紹介したビクターのDD-9のように、自動的にテープを早送りする動作はありません。そのため、リーダーテープの部分や、テープにシワや傷がある部分を予め送っておく必要があります。

【V-900Xのテスト信号】

テスト信号の鳴り方からして、「録音感度補正 ⇒ イコライザー調整 ⇒ バイアス調整」の順で行われている模様です。DD-9では短いパルス音であるのに対し、こちらは連続音が使われています。

 

Nakamichi 1000ZXL

Nakamichi 1000ZXL

カセットデッキの頂点といえばこのデッキ。『Computing CassetteDeck』の異名を持つほど、オートチューニングのシステムも最高峰です。

1000ZXLには録音ヘッドのアジマス調整を自動で行う機構が搭載されており、オートチューニング時に調整が行われます。再生ヘッドと録音ヘッドで調整の整合を合わせることで、まず正確に録音同時モニターが行える状態にします。

3ヘッド方式というと、録音用と再生用が一体になったコンビネーションヘッドが多く使われていますね。でも実は、微妙に調整の整合にバラつきがあったりします。オシロスコープのリサージュで確認してみるとよく分かります。中には不良に近いヘッドも…

そんな3ヘッド方式の弱点を解決すべく、自動でアジマス調整をする機構が搭載されていると考えられます。

録音スタンバイの状態から、RunとPlay同時押しでスタート。

テープによって時間が変動しますが、調整にかかる時間は40~50秒です。テープが痛んでいると調整時間が長くなる傾向があり、上手く調整が行えないと何回かリトライが行われ、場合によっては1分くらいかかることもあります。

【1000ZXLのテスト信号】

始めは400Hzのテスト信号で、録音ヘッドのアジマス調整とバイアスの調整が行われます。400Hzという低い信号音でバイアス調整を行うのも1000ZXLの大きな特徴です。

一般的にバイアス調整には10kHzなどの高音が使われ、低音域のレベルと等しくなるように調整を行う方式が多いです。ところが1000ZXLでは、400Hzのテスト信号だけでバイアス調整を行います。

バイアスに過不足があると低音域の録音レベルが変化する、という磁気テープの特性を利用していると考えられます。ただこれだけでは低音域と高音域のバランスが取れないので、イコライザー調整で補うという形です。

バイアス調整が終わると、録音感度の補正とイコライザー調整に入ります。1000ZXLのテスト信号を聞いていただくと分かるように、周波数が異なる音が数種類ランダムに鳴っています。25kHzまでの音域でフラットな周波数特性を実現するために、低音~高音の全域でイコライザー調整が行われているようです。

このような緻密な調整を行うことで、テープが持つ性能を100%引き出すことが可能になります。逆を言えば、テープの性能を100%引き出すにはこれだけの調整が必要だとも言えますね。

 

オートチューニングにも欠点が。

オートチューニング機能は、ワンタッチでテープに最適なバイアス・イコライザーを自動調整してくれる、当時としては画期的な機能だったと思います。メリットはずばり、『楽』かつ『高精度』である点です。

今回ご紹介したデッキの中には、イコライザー調整まで行うものもありました。もしそのようなデッキが、全部手動での調整だったらどうでしょう?

デッキ本体が操作ボタンやボリュームのツマミで溢れます。実際、全部手動で調整を行うというデッキも存在します。(TEACのZ-5000など) しかし、難易度はなかなか高いです。説明書を読むだけでは間に合わず、実践の経験までもが要求されるようなベテラン向きのデッキとも言えます。

このような複雑な調整もコンピューターが行うことで、初めての方や慣れていない方、あまり居ないと思いますが面倒くさい方でも、簡単に高音質で録音するための設定が行えます。

小さな穴が沢山あるが、ここにドライバーを突っ込んで中にあるボリュームを回して調整する。

そんな『楽』かつ『高精度』なオートチューニングですが、デメリットもあります。それは、自分好みで調整をアレンジできない事です。

手動で調整するデッキの場合、例えばバイアスを少しだけ増減させて高音域の味付けを変えるといったことが自由自在に行えます。

一方、オートチューニングを搭載したデッキは、殆ど機械任せになります。ごく一部に手動でも調整ができるように操作ツマミが付いているデッキも存在します。実は1台目のKX-580がそうです。

自動と手動の両方で調整を行えるデッキは少ないですが、チューニングを行わずに初期設定の状態で録音できるデッキは多くあります。

逆にチューニングを行わないことができないのが、AKAIのGX-R88です。毎回必ず調整が済んだ状態で録音することになります。ただ、これではメンテナンスの時に都合が良くないため、実はオートチューニングをキャンセルする隠しモードが存在します。

 

あと、これは手動式のキャリブレーションでも言えることですが、テープが痛んでいると調整が失敗しやすいです。

手動式のキャリブレーションであれば、メーターの振れ方が小さくなるといった現象が出るので、すぐに分かると思います。

オートチューニングの場合、コンピューターが無理やり調整を行おうとするので、おかしな調整になることがあります。親切なデッキだとエラー表示で知らせてくれますが、何回もエラーが出るとちょっとムッとなりますね(汗)

できるだけテープの状態が良い部分で調整を行うことが、オートチューニングでのコツです。そして、オートだからと言って過信せず、必ず試し録りをしましょう。

 

まとめ

個人的にワンタッチかつ短時間で調整をやってくれるというのは、半導体やマイコンの技術が進歩と、各社が技術を結集した素晴らしい機能だと思っています。

ただ、カセットテープが完全に娯楽品となった今の時代は、やはり手動で調整するタイプの方が楽しいと思います。カメラが好きな人はフィルムカメラ、クルマが好きな人はマニュアル車、みたいな感じでしょうか。もちろん人それぞれ好みはあると思います。

「僕もマニュアルかオートどっちが好きですか?」と訊かれたら、まぁマニュアルと答えます(笑) なんでも機械任せにするのが好きではなくて…(;´∀`)

個人的な趣味趣向は置いておいて、オートチューニングはカセットデッキの進化において重要な機能であることには違いありません。他にも1970年代後半になってロジックコントロールが採用されたり、1981年にはアモルファスヘッドが採用されたりなど…

カセットデッキの進化を軌跡を年表にまとめてみるのも面白そうですね。

それでは、また(・ω・)ノ

 

動画バージョン

動画バージョンでは全8台のオートチューニングデッキを紹介しています。

 

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